雇用多様化する職場の活性化!非正規社員の動機づけ
雇用多様化の課題(デメリット等)を克服し、人材育成・組織活性化する方法をご紹介します。「実践キャリア教育」人事戦略とは、従来の人的資源管理を「アイデンティティの確立が『自律型人材』を創る」という視点から捉え直し、様々な創意工夫を加えて再構築したものです。
「雇用多様化時代の人材育成・組織活性化の進め方」(『実践キャリア教育』人事戦略)
「雇用多様化時代の『実践キャリア教育』人事戦略~仕事への前向きな価値観『心的資産』を創出し多様な人材を統合・活性化する~」(第58回優秀論文入選、2006年)から抜粋して掲載。
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目次
第1章 「実践キャリア教育」人事戦略とは何か:本論文における定義
本論文におけるキャリア概念は、従来の経営管理・人的資源管理において広く用いられてきた「狭義のキャリア概念」とは異なる「広義のキャリア概念」である。新しい「キャリア形成」に関する考え方と従来の考え方の混同や混乱を避けるために、まず序章において本論文と従来の考え方との異なる点を整理する。
1.「実践キャリア教育」人事戦略のねらい
「実践キャリア教育」人事戦略のねらいは、多様な雇用形態の人材が混在する今日の人的資源構造(雇用ポートフォリオ:多様な雇用形態の人材ミックス戦略)の下での雇用多様化のデメリットを克服し、さらに人的生産性を高め、企業業績の向上に資する事にある。
2.「実践キャリア教育」人事戦略の定義
「実践キャリア教育」人事戦略とは、従来の人的資源管理を「仕事を通してアイデンティティを確立する」という「真のキャリア形成」の視点から捉え直し、従来に無い様々な創意工夫を加えて、人的資源管理戦略を再構築したものである。
従来の人的資源管理戦略との大きな差異は、本論文で用いるキャリア概念が「広義のキャリア概念」であり、従来の人的資源管理や経営管理領域において語られてきた「狭義のキャリア概念」とは大きく違う点である。それが本論文の独自性の源泉である。
3.「心的資産」とは「仕事や会社に対する前向きの信念や価値観」
本論文が基礎を置く「広義のキャリア形成」とは、「仕事を通してアイデンティティを確立し、仕事や会社に対して前向きの信念や価値観を持つこと」である。
(注1)川端大二、関口和代『キャリア形成』中央経済社、2005年を参考とす。
そして、これが本論文が提案する「心的資産」という新しい概念である(上述のマインドセットが大切な財産であるという意味の造語)。団塊の世代の大量退職時代を迎えて、高齢者層の持つ「技能継承」が大きな課題とされている。しかし、継承すべきは熟練技能すなわち「知的資産」だけで十分なのであろうか?
雇用の多様化が進展する中で、自分自身の人生と職業生活(会社生活)との乖離は急速に進展している。つまり、自分自身の人生と職業生活を重ねあわせ「仕事や会社に対する前向きの信念や価値観を持つ」という、産業界で働く諸先輩が築き上げてきた「財産」が、①団塊の世代大量退職と②雇用の多様化によって、今急速に失われているのである。
確かに、財務諸表上の人的生産性は、一人当たり人件費水準の高い高齢正規社員が大量に退職し、(正規社員より人件費コストの低い)非正規社員の割合が増えれば、一見高まったように見える。しかし、その背景では日本産業界の発展を支えてきた「心的資産」が継承されずに失われつつあるという危機に気付き、対策を打たなければならない。それが、本論文のテーマの一つでもある。
4.狭義のキャリア概念から「自律型人材」を創る広義のキャリア概念へ
(1)狭義のキャリア概念の衰退
従来、経営管理的な意味での、企業組織のキャリア関連概念としては、「従業員個人の仕事の経歴」や「キャリア・ディベロップメント・プログラム:個人の希望する仕事と組織の求める仕事のマッチングを図りつつ長期的人材育成を行う」といった考え方であった。あくまでも「仕事に役立つ」という視点が強く、個人が確たるキャリアを形成する事はその手段に過ぎなかった。従来のキャリア形成という概念は極めて狭義なキャリア概念であり、「仕事に役立つ」人材を育成する「中長期的能力開発」とほぼ同義語であった。
(2)経営環境の変化が常態化した「顧客満足の時代」
キャリア形成=中長期的能力開発に留まったのは、従来のマネジメントがトップダウン型の論理で組み立てられていたからである。実現すべき戦略、達成すべき目標がトップにより策定され、実行メンバーへトップダウンで落とし込まれていくマネジメント下では(あらかじめ決められた)遂行すべき仕事と人材とのマッチングが非常に重要だからである。
しかし、今や経営環境の変化のスピードは極めて早く、変化の規模は非常に大きくかつ複雑になった。その変化が常態化した経営環境下では、従来型の予算や経営計画でさえも有効ではないという『脱予算』理論が現実のものとなりつつある。
(注2)ジェレミー ホープ (著), ロビン フレーザー (著),清水 孝 (翻訳)『脱予算経営』生産性出版、2005年、ポリー・トインビー (著), 椋田 直子 (翻訳)。
さらに、現代は供給過剰の時代であり、顧客の求めるものを素早く柔軟に提供する顧客満足戦略が、企業の成長発展にとって極めて重要な時代となっている。
(3)「自律型人材」の必要性
つまり、あらかじめ決められた仕事や目標が、顧客のニーズや経営環境に合致しない場合には、その場その場で顧客ニーズや環境の変化に対応して自らの行動や戦略を変えていく必要に迫られたのである。現場で戦略が生れるという状況が現出した。そして、そこにこそ「自律型人材」が求められる理由が存する。
「自律型人材」とは、組織や上司から言われた事やあらかじめ決められた目標達成だけに注力するのではなく、具体的目標の背景にある経営理念・経営ビジョンを理解し、経営戦略の方向に沿って、自らの行動を変え、必要とあれば目標を修正したり戦略変更への意見具申が出来る人材である。中期的に見れば、経営理念・経営ビジョンを理解し、経営戦略の方向に沿って、求められるものを察知し自らを成長させられる人材である。
(4)アイデンティティの確立が「自律型人材」を創る
「自律型人材」は従来の「仕事に役立つ能力開発」という考え方では育成することはできない。自律型人材になるには、職業生活におけるアイデンティティを確立する必要がある。その論拠と技法は本論第 II 章以降において論述する。
第2章 雇用多様化時代の人的資源管理の課題
1.多様な雇用形態の人材をどう統合・活性化するか?
(1)雇用多様化で加速する成果主義のデメリット
1995年の旧日経連『新時代の「日本的経営」』の提言以来、雇用形態の多様化が進み、企業の人的資源構造は大きく変化した。①正規社員の割合が減少し、非正規社員すなわち②契約社員(フルタイム有期雇用契約社員)や③パート社員、④派遣スタッフの割合が増加してきた。さらに団塊の世代の大量退職時代を迎え、⑤定年後の高齢短期雇用契約社員(以下「嘱託社員」と呼称)も増加しつつある。
非正規社員の増加により、企業の人的資源構造が大きく変化した一方で、人的資源のマネジメントはその構造変化に対応した改革はなされなかった。
近年、人的資源管理の手法は「成果主義」(個人の業績を評価し処遇に反映させる人的資源管理)への傾斜を強めたが、それは「非正規社員の増加」という人的資源構造の変化に対応したものではない。むしろ、過剰な「成果主義」は「非正規社員の増加」という人的資源構造の変化にともなって図表1のデメリットを加速させる。それは正規社員対象の従来型マネジメントで非正規社員をマネジメントする事からくる①マネジメント不適合のデメリットである。多くの割合を占めつつある非正規社員に②成果主義のデメリットが強く影響するという2つの意味がある(図表1参照)。
図表1:雇用多様化で加速する成果主義のデメリット
●成果主義の短期指向(単年度業績評価偏重)と非正規社員の短期指向が相まって、短期指向の価値観や行動が強まる。 |
●企業業績への貢献よりも、個人が受け取る経済的メリットを優先する価値観や行動が強まる(全体最適化→部分最適化→個人最適化)。 |
●非正規社員の高い流動性、中長期的指導育成の軽視や雇用不安によるノウハウの囲い込み等により、技能継承が困難となり組織内の知的資産が失われる。 |
●与えられた仕事の範囲、指示された仕事内容以外の仕事への関心が無くなり、仕事をトータルフローでみた生産性が低下する(出典:『ハードワーク』東洋経済新報社、ポリー・トインビー (著), 椋田 直子 (翻訳)、2005年)。 |
●現場で働く非正規社員の自律性が低いため、現場の変化・顧客ニーズの変化に対応した「現場主導型」の顧客満足経営の実践やKAIZENが困難となる。 |
●与えられた仕事の範囲、指示された仕事内容以外の仕事への関心が低いため、チャレンジングな取り組みが不足する。 |
(2)第2の中核人材の活性化
契約社員(フルタイム有期雇用契約社員)は、社会横断的に専門職として認知されるような「高度専門能力活用型」だけかというとそうではなく、「長期蓄積能力活用型」に近い「第2の中核人材」となっているケースも増えてきた。むしろ、「高度専門能力活用型」よりも、正規社員と同じ仕事をしている「第2の中核人材」の契約社員の数が増加し、非正規社員のマネジメントをより一層困難なものにしている。
(3)高齢者の活性化
正規社員も定年を迎えると嘱託社員となり、賃金水準は大幅に低下し短期雇用のリスクを負う。しかし、嘱託社員にも第2の中核人材として活躍してもらう必要がある。
(4)非雇用契約型人材の活性化
派遣スタッフのような非雇用契約型の人材も急増し、従来のような派遣スタッフ活用に適した単純な仕事だけではなく、複雑な仕事や調整業務、リーダー的業務を担う派遣スタッフも増えてきた。こうした高度な仕事で十分な成果をあげてもらうには、一部の熟練した派遣スタッフにも第2の中核人材として働いてもらう必要がある。
2.目標管理と経営計画(経営戦略)をどうやって有機的に連係させるか?
成果主義成立の最大要件は、端的に言えば目標管理の成否である。目標管理運用のなかでも重要なのが、目標管理における目標と経営計画(経営戦略)とを如何に有機的に連係させるかである。経営計画と結びつかない目標は、単に査定の手段に過ぎず、企業の発展に役立つどころか、人的資源パワーの分散という大きなデメリットを生む。
3.コンピテンシーをどうやって発揮させ高業績につなげるか?
成果主義改良の決め手として登場した、コンピテンシーであるが「どうやって行動発揮させ高業績につなげるか」という課題が残る。コンピテンシーを行動発揮させる原動力は、個人の信念や価値観、動機、使命感、さらには性格などの資質レベルの要素である。したがって、コンピテンシーを行動発揮させるには①知識や技能を習得させるだけではなく、②「個人の信念や価値観、動機、使命感、性格」に働きかけて啓発し、コンピテンシーを行動発揮させたり、③「個人の信念や価値観、動機、使命感」などを期待される方向へ啓発する等の施策が必要である。
第3章 未来型人的資源構造企業の改革事例とキャリア教育現場での気付きと問題提起
1.未来型人的資源構造企業の人事改革事例
未来型人的資源構造をもつ企業Z社の人事改革を支援した。この企業では契約社員が25%で完全に第2の中核人材となっている(派遣スタッフが半数以上)。第 I 章で述べた課題が山積している。従来型の人的資源マネジメント技法では、人的生産性を高めることは困難であった。
雇用形態 | 構成比率 |
正規社員 | 20% |
契約社員 | 25% |
派遣スタッフ | 55% |
2.キャリア教育の真髄と今日的意義
いくつかの学校改革に参画し、「キャリア教育」の今日的意義が非常に高い事を実感した。現代の日本は、高い若年層失業率、高い若年層離職率、フリーター・NEETの増加、若者の能力蓄積の不足、地域における若年層雇用情勢の格差、不安定就労の増大など多くの問題を抱えている。これが日本の国際競争力低下と社会不安の増大につながるとして、若者のキャリア形成支援・就職支援は新たな国策ともなった。
高等学校や大学等の教育機関で行われているキャリア教育の本質は、職業選択活動の試行錯誤の中で、自分自身の様々な可能性を見つけ出し、かつまた可能性を現実と向き合い取捨選択する事を支援する教育である。それは、自分自身の将来や職業について「働くということはどういう意味があるのか?自分はどのような職業につくべきなのか?」と真摯に探求し、現実的制約と期待や可能性との間で悩む事を通して、アイデンティティを確立するための重要な体験学習(プロセス)でもある。
“アイデンティティ(自我同一性)とは「自分の人生がどの方向に進みつつあるのかという認識を持ち、社会や集団の中で自分は(価値ある)役割を担っているという確信を伴った状態」である。”(注3)出典:川端大二、関口和代『キャリア形成』中央経済社、2005年。
すなわち、キャリア教育の真髄は、職業選択の試行錯誤の過程や実際に「働く」事を通してアイデンティティを確立する事にある。キャリア教育の真の意義は、就職活動や就職試験に勝ち残り、希望する職業についたり企業に就職する事ではない。
3.就職後の実践キャリア教育の必要性
しかし、教育機関におけるキャリア教育で上述の意義は達成できるのであろうか?キャリア教育が、「職業」や「働く場である企業」などと「自らの人生の可能性」のマッチングを試行錯誤で見つけ出す「アイデンティティの確立」プロセスである以上、机上の学問だけでは無理なことは当然である。
課外活動の体験によってもある程度は可能であろうが、実際に職場に入り働いてみないことには、真のアイデンティティの確立は困難ではなかろうか?つまり真のキャリア教育(アイデンティティの確立)は、教育機関でのキャリア教育に加え、就職後のキャリア教育(以下「実践キャリア教育」と呼称)を行わなければ達成できないのである。
視点を企業の人的資源管理に変えてみると、今日の企業が育成すべく注力している「自律型人材」は、若い社員のアイデンティティが仕事を通して確立し、試行錯誤の末に仕事に対して前向きの価値観を持ち得た時にこそ達成されるのではないだろうか?
4.「自律型人材」を育てる「キャリア教育」の視点で人的資源管理を再構築する
就職後の「実践キャリア教育」が、仕事を通してアイデンティティを確立し、職業と人生に対する前向きな信念・価値観を社員にもたらし、チャレンジの出来る「自律型人材」を育成することが出来るとすれば、その重要性は極めて大きい。
また、コンピテンシーの行動発揮の要因として「個人の信念や価値観、動機、使命感」などを期待される方向へ教え導く施策があるが、まさに「職業と人生に対する前向きな信念・価値観」へと啓発する事に他ならない。コンピテンシーを単なる評価の仕組みから、高業績達成につなげる行動改善マネジメント・ツールへと高め、企業業績を向上させるために実践キャリア教育は非常に効果的である。
したがって、従来の人的資源管理を「実践キャリア教育」の視点から改革する事は、非正規社員や高齢者などの多様な人材を統合・活性化し、人的資源のトータルパワーを高めるための極めて重要な人事戦略であることに気付く。本論文は「人創り革新」のコンサルティング現場から生れた前述の気付き・問題意識を、具体的かつ実践的な人事戦略にまとめあげたものである。
第4章 「実践キャリア教育」メリット+プライド→チャレンジ
(メリット軸&プライド軸についてはこのページをご参照ください。)
1.「実践キャリア教育」人事戦略の体系
「実践キャリア教育」人事戦略の体系は図表2・3の通り。
図表2:「実践キャリア教育」人事戦略のポイント
●「チーム目標管理」システムの設計と運用により、チームスピリットを醸成しながら、日々の仕事が付加価値を生み出し、顧客満足と社会貢献につながる事を体験してもらう。高度な目標にチャレンジし達成していく職業体験は、教育機関では得られない実践キャリア教育である。 |
●「コンピテンシー・ラーニング」による実践的なキャリア教育を行う。 |
●多様な人材の多様なニーズを現状肯定するだけではなく、「実践キャリア教育」によって、非正規社員・高齢者にも仕事の意義・やりがいといった前向きな価値観を啓蒙し、働く喜びや満足を提供する。 |
図表3:「実践キャリア教育」人事戦略の体系図
2.「実践キャリア教育」人事戦略のポイント
(1)人的資源管理戦略の統合的ストーリー
個人とチーム・会社・社会の重層的相互作用を解りやすく整え、日々の仕事が社会貢献につながる事を実感できる「人的資源管理戦略の統合的ストーリー」を創る。それは①高業績達成へのシステムであり、同時に②キャリア形成のシステムでもある(図表4)。
図表4:①高業績達成へのシステム=②キャリア形成のシステム
(2)頑張り・成果に応じた「メリット」訴求
多様な雇用形態の人材に対して、頑張って成果をあげた者が報われる仕組みを設計し、公正に運用する。従来どおりの①人事評価の昇給や賞与への反映、インセンティブだけでなく、②非正規社員の正規社員への登用ルート(派遣スタッフ→契約社員→正規社員)を整備する。また③登用基準を明示して、非正規社員が計画的かつ自律的、積極的にキャリアを高められるような人的資源管理を行う。
登用基準は、①一般社員レベルのコンピテンシーを行動発揮することが派遣スタッフから契約社員への登用の必要条件となり、②リーダーレベルのコンピテンシーを発揮できるかどうかが正規社員登用のキーファクターとなる。したがって、コンピテンシー行動発揮の意欲が非常に高まる。
(3)働く「プライド」の醸成
人は利(メリット)によっても動く。しかし、利だけでは長続きしない。例えば、賃金処遇は動機づけ要因ではなく、不満を解消するだけの衛生要因である。
そこで、注目すべきは働く者の「プライド」を尊重することである。誰もが、働く意義と喜びを実感できる可能性を持っている。雇用の多様化の潮流の波にのまれ非正規社員となった者は、有期(短期)の雇用契約ゆえにその可能性を閉ざされているだけである。眠っている「プライド」を呼び覚まし自覚させるために図表2のような施策を実施する。
(4)メリット+プライド→「チャレンジ」
「メリット」施策による物質面の充実と「プライド」施策による精神面の充実が同時に実現できれば、働く一人ひとりの自律性が高まり「チャレンジ精神」も自然に生まれる。
第5章 「実践キャリア教育」人事戦略の統合的ストーリー
1.高業績達成へのシステムを作る
まず、戦略目標達成に向け人的資源パワーを集中する「高業績達成へのシステム」を、図表4のように以下(1)から(3)の3ステップで作りだす。
(1)企業の方向性を明示
経営理念、経営ビジョンから共有すべき価値観(バリュー)を抽出し包括的行動指針とし、それを具体的行動レベルのコンピテンシーへと展開する。また経営戦略(経営計画)により、具体的方向とゴールを明示する。
(2)チーム目標という共通のゴールに集中
経営戦略を実現するためのチーム目標を策定し、それをチームメンバーが日々仕事を進める上での共通のゴールとする。そのチーム目標達成に向け、チームの力を集中する。経営戦略と連係できる個人目標が設定できるのであれば、個人目標も同時に推進するが、部分最適化の弊害のでない範囲に留める。
(3)高業績達成へのプロセスをスパイラルアップ改善
高業績達成へのプロセスの各レベルを、不断にスパイラルアップ改善する。
一人ひとりの行動のレベルにはコンピテンシーが「高業績達成のためのノウハウ・ヒント」として役立つ。そのコンピテンシーはP・D・C・Kaizenのサイクルを回し常に改善し続ける知識創造型コンピテンシーなので一人ひとりの行動が継続的に改善されスパイラルアップする(人事考課のためだけに作られたコンピテンシーとは異なる)。
チームとしての活動にもP・D・C・Kaizenのサイクルを回す。それがチーム目標管理技法である。また、管理職層にチーム目標管理を展開して、全社的・組織横断的レベルの協働を実現する。チーム目標管理を推進することで、組織の問題解決能力が高まり、高業績達成への好循環が進展する。
2.キャリア形成支援のシステムを創る
上述の「高業績達成へのシステム」は、同時に「キャリア形成」支援のシステムともなる(図表4参照)。次の(1)から(3)でキャリア形成を支援する。
(1)コンピテンシー・ラーニング技法
まず、経営理念、経営ビジョンを共有価値観(バリュー)という形で解りやすく明文化し、企業の方向性を具体的に明示する事で、多様な人材に「①自分がどの方向に進みつつあるのかという共通認識」を持たせる。
そして、「その経営理念、経営ビジョンにそってどう②行動すべきかヒントを提供する」
そのヒントをもとに、「③具体的にどう行動するのかを自らの頭で考える」これがコンピテンシー・ラーニング技法である。
(2)チーム目標管理技法
次に、チーム目標管理技法により、経営戦略・経営計画・戦略目標をチーム目標にまで有機的に展開する。一人ひとりの多様な人材はそのチーム目標を達成するためのチームとなり、相互の協働関係を保てる範囲で個人の分担を決める(チーム目標管理のページ参照)。
その分担は、一旦は担当を決めるが常に支援協力し合うという柔軟でダイナミックな分担方法であり、協働による相乗効果を発揮できる状態を保つ事に注力する。チーム目標の達成度をチーム全員同一評価にするという評価システムによって、チーム目標達成への協働が維持される。同時にボトムアップ型の個人目標も併用する。営業職種などでは個人業績を個人目標とし、適宜そのウエイトを高める。
従来の個人目標に分割され個別管理される状況とは異なり、チーム目標管理技法によって自分の分担する目標を達成することが、チーム目標の達成につながり、それが会社の目標達成、ひいては事業を通した社会貢献につながるということを実感させるので、多様な人材が「②社会や集団の中で自分は(価値ある)役割を担っているという確信」を持つことができる。
(3)仕事を通してアイデンティティを確立し「キャリア形成」
①②に加えて「③自分の人生と職業の関係」をコンピテンシー・ラーニング技法により問いかけ(コーチング)、かつまた教育(ティーチング)する。このシステムのサイクルを回すことで、仕事を通して多様な人材一人ひとりのアイデンティティを確立する事ができ、それこそが「キャリア形成」である。
第6章 コンピテンシー・ラーニングによる「実践キャリア教育」
1.経営理念展開型コンピテンシー作成技法
経営理念展開型コンピテンシー作成技法は、図表5のステップで実施する。
図表5:経営理念展開型コンピテンシー作成技法フロー図
経営理念・経営ビジョンから共有すべき価値観を抽出する過程で、「我社は何をもって社会に貢献するのか?何を顧客に提供するのか?」という議論が必ず行われるので、会社が「何のために存在するのか?」という使命が明確になり、一人ひとりの人材に「仕事の意義」を実感させてくれる。そして、この延長線上に自分自身の役割の認識が繋がり、仕事に対する『信念』が生まれる。こうして「働くということは、生きるということ」という気持が自然に芽生え、仕事に主体的かつ積極的に「自律的」に取り組むことができる。
2.経営理念展開・コンピテンシー応用コーチングの水平展開
コンピテンシーを用いて非指示的コーチング技法により図表5の①部分はそのままのプログラムで水平展開する。②の部分は、「作成されたこのコンピテンシーを自分の職場で実践する場合、どういう具体的行動をとるべきか?」というワークショップに変えて水平展開する。コンピテンシー・モデルには、「仕事を通して立派な社会人に成長します」というキャリア形成のコンピテンシー項目があり、実践キャリア教育を加速させる(図表6参照)。もちろん人事評価にも「仕事を通して立派な社会人に成長します」というコンピテンシーが取り上げられるため、実践キャリア教育のP・D・C・Aのマネジメント・サイクルを回すことが可能となる。
図表6:キャリア形成のコンピテンシー項目例
第7章 「実践キャリア教育」人事戦略の意義
1.「実践キャリア教育」人事戦略の効果
「実践キャリア教育」人事戦略の実践により、成果主義のデメリットは図表7の通り改善される。
図表7:成果主義のデメリット改善効果一覧表
デメリット | デメリット改善効果 |
●短期指向の価値観や行動が蔓延する。 | 派遣スタッフ→契約社員→正規社員といったキャリアアップルートとキャリアアップ要件を整備して、中長期的指向を持ってもらう。 |
●企業業績への貢献よりも、個人の経済的メリットを優先する。 | 自分の担当している仕事が、チームの成果・会社の成果そして顧客満足や社会への貢献につながることを啓発し、自らの役割と仕事の意義を認識してもらう。 |
●技能継承が困難となり、組織内の知的資産が失われる。 | 派遣スタッフ→契約社員→正規社員といったキャリアアップルートとキャリアアップ要件を整備して、中長期的指向を持ってもらう。キャリアアップ要件に重要な技能を盛り込み明示する。高齢者(嘱託社員)に非正規社員への技能継承の役割を遂行してもらう。 |
●仕事をトータルフローでみた生産性が低下する。 | 自分の担当している仕事が、チームの成果・会社の成果そして顧客満足や社会への貢献につながることを啓発し、自らの役割と仕事の意義を認識してもらう。 |
●「現場主導型」の顧客満足経営の実践やKAIZENが困難となる。 | 「実践キャリア教育」人事戦略の総合的施策により、仕事を通してアイデンティティを確立してもらい、仕事や会社に対する前向きな信念・価値観を啓発する。それが「自律型人材」の育成につながり、カイゼンやチャレンジ行動が発揮される。 |
●チャレンジングな取り組みが不足。 |
また、第2の中核人材の活性化、非雇用型人材の活性化も、メリット訴求施策とプライド醸成施策の相乗効果で優れた成果が期待できる。非雇用型人材に対してもコンピテンシー・ラーニングは有効であり、コンピテンシーはキャリアアップの目標として非雇用型人材を動機づける。さらに、高齢者には①技能継承②心的資産継承の指導役を務めてもらうことで、高齢者の職業人生を我知らず振返らせ、充実した職業人生を歩むことの意義をもう一度思い出し活性化して頂く。
チーム目標管理技法により、目標管理と経営計画の有機的な連鎖は達成される。コンピテンシー行動発揮への動機づけは、コンピテンシーがキャリアアップの明確な目標となり、評価結果が処遇にも反映され加速する。また、仕事や会社に対する前向きの信念・価値観がコンピテンシー行動を駆り立てる原動力となる。
「実践キャリア教育」人事戦略の総合的効果で社員の自律性は高まり、顧客ニーズや環境の変化に素早く柔軟に対応することで、新しい価値を生み出し顧客満足を高める自律型組織が実現する。
2.企業の人的生産性の向上と高業績の達成の為に
雇用多様化戦略により、低廉な人件費コストや雇用リスクの回避という戦略を選択するのならば、同時に非正規社員や高齢者が仕事を通してアイデンティティを確立し、キャリア形成を支援する事に積極的に取り組む必要がある。なぜならばそれが「自律型人材」を育成する道であり、多様な人材を統合・活性化し企業組織トータルの人的生産性を高め企業業績を向上させる効果的な人事戦略だからである。
多様な雇用形態の人材が、仕事を通して職場の仲間や企業、社会と自分自身がしっかりと結びついて一体化している確信を持ち、アイデンティティを確立する支援を積極的に行う人事戦略こそが、雇用多様化時代の様々な矛盾を綜合できるジンテーゼなのである。
3.「実践キャリア教育」人事戦略の社会的意義
非正規社員は短期雇用のリスクや正規社員に比して低い賃金などの職業生活の基盤の脆弱さに耐えながらも、企業の発展のために貢献している。その非正規社員にも、仕事を通して成長し、仕事の充実感と喜びを味わってもらうことは企業の使命である。
教育機関でのキャリア教育と連動して企業内で実践キャリア教育を行い、組織の枠組みを超えたキャリア形成のためのトータルフローを確立する事が、日本の人的資源のさらなる発展に繋がる。日本の産業界が育て上げてきた「心的資産」を消耗し、貴い人的資源をスポイルしてはならない。
EX.リーダー・管理者に役立つ参考書籍
『ちょっとズレてる部下ほど戦力になる!』日本経済新聞出版社刊、加藤昌男著。最新刊!(このホームページ上にも紹介記事ページがございます)
若手社員を戦力化し、職場を活性化する最新のノウハウを解りやすく説明しています。若手社員を戦力化しやる気にさせる方法、内発的動機づけ、仕事の楽しさを味わう方法、組織活性化の方法、コミュニケーションを取る方法などこのページでは紹介しきれない沢山のケースや実践例で説明しています。さらに、具体的方法、具体的プログラムなどお役にたつツール(ソリューション)をまとめました。きっと皆様のお役にたつことと思います。わかりやすく平易な文章で丁寧に書いていますので、「とても読みやすい」「読んでいて面白い」と喜ばれています。
若手社員は本当は戦力になります!若手が何を考えているか解らないと悩むリーダー・管理者の皆様の為に書きおろしました。
『労政時報』の労務行政研究所様が、拙著のレビューを書いてくださりました(人事・労務の専門情報誌『労政時報』の労務行政研究所が運営するjin-jour(ジンジュール)様からのレビューです)。誠に有り難うございます。