モチベーションのキーであり高業績達成のキーでもある重要なニーズ、それは人間として成熟する希求、人間力を高めるアイデンティティが成熟する喜び」です。

 仲間と協力し対話して創造性・イノベーションを生み出すために、人事は何が出来るか、何をすべきか考えると、「人の成長」にアプローチする必要が出てきます。仕事をするスキルといった能力だけではなく、全人格的な成長がなければ、創造性・イノベーションを生み出すことはできないからです。
 そして、人間として成長し(人間の幅を広げ)成熟していくことは、我々にとって大きな喜びになります。それは、モチベーションのキーでもあり、高業績達成のキーでもあります。
 そうした、人間が成長していく喜び、アイデンティティが成熟する喜びについてご紹介します。

1.成長につれ高度なニーズ(欲求・課題)が生まれる

(1)自分自身(アイデンティティ)はどのように発達するか

 我々は、自分自身を常に変化させ成長させながら人生を歩んでいる。成長が、ある一定のレベルに達すると、しっかりとした自分自身に成り得たという思いが湧いてくる。これが、アイデンティティの確立である。

 例えば、就職をするという出来事は、アイデンティティの確立の一つである(完成したわけではない)。

 しかし、就職は人生の目的・ゴールではなく、働き始めると世の中との関わり合いが密接かつ継続的になり、その一連の経験の中で、仕事が上手く行かない体験などを経て自分自身の無力さを思い知ることもある。そうすると、一端確立したかに思えた自分自身(アイデンティティ)は揺らぎ出す。

 だが、周囲の協力や指導を受けながら、なんとか仕事をこなし続けると、日常的な仕事はこなせるようになる。そうすると、「ああ、私も一人前になったな」と喜ぶ。その時、「私」は、「一人前のビジネスパーソン」としてのアイデンティティを確立(再確立)する。

 さながら、自分自身のプロトタイプ(試作品)を作ってはトライ・アンド・エラーを繰返しながら成長していくのが我々自身の人生である(生涯発達理論より)。

※「自分自身のプロトタイプ開発」は生涯発達理論に基づくアイデンティティの確立のプロセスを解りやすく例えた加藤の造語。アイデンティティを「自分自身」と読み替えているのも同様の工夫。

(2)「世の中の役に立つものを生み出したい」欲求

 30歳から50歳になると(会社の中核人材の年代になると)、「生殖性(創造性、次世代性)」(Generativity)を満たしたいという欲求を持ち、それが満たされたときは心の中から喜びが湧き上がる(生涯発達理論より)。
 「生殖性(創造性、次世代性)」(Generativity,ジェネラティビティ)とは、より良い社会を創り次世代へ継承したいという願い(ニーズ)です。後輩や後継者を育成したいという願いなどもあります。(これはワーキングライフにおけるジェネラティビティです。他にも様々な生活シーンでジェネラティビティに関わる事象はあります。例えば、育児や出産など。)

 会社生活の中では「世の中の役に立つ仕事を成し遂げる、社会の発展に繋がる何かを作り出す」ことが、心の内面からの喜びに繋がる。その喜びを感じることは、すなわち自分自身の成長を「社会との関連性において」実感することでもある。

(3)「後輩や後継者を育成したい」という願い

 また、人材育成がうまくいかず悩んでいる企業も多いですが、この「後輩や後継者を育成したいという願い」は人材育成のための大きな援軍になり得ます。

2. 「社会性のある強い個」のアイデンティティの成熟の喜び

 換言すれば、「世の中の役に立つものを生み出す」という基準で、自分自身の成長を測るのである。
 もちろん、「より自分らしく生きる」という基準も重要であり、「世の中の役に立つものを生み出す」という基準とのバランスのとれた状態が最も「自分らしさの高まり、成長」を実感できる。片方だけでは、満足できない。

 「アイデンティティ成熟の喜び」の意味は、次のような2つの喜びを同時に感じることである。

(1)内なる自分自身:強い個の確立

 自分が社会(他人)に喜んでもらえる貢献ができるレベルに成長した(優れた個の確立)という喜びです。
 これは、他人や社会から何を言われようとびくともしない強い自分自身を確立するという(昔ながらの、西欧風の「個の確立」)思想である。いわば、内なる自分自身に対する誠実性、内なる自分自身に向き合って得られる喜びである。

(2)社会との関係性において自分自身を認識

 社会が自分を必要としているという関係性において、自らの存在意義を実感する喜びです(社会的アイデンティティの確立、個だけではない周囲との関係性におけるアイデンティティの確立)。

 この2つが、アイデンティティ成熟の喜びです。2つが揃ってこそ「成熟」段階に達します。

3. 次世代リーダー育成のための新視点

 次世代リーダーは、仲間と協力し対話して創造性・イノベーションを生み出し、高業績達成するための核になれる人材です。
 換言すれば、次世代リーダーに必要なのは、この「アイデンティティ成熟の喜び」のステージにいかに登壇させるかという視点が必要です。
 誰もがこの「アイデンティティ成熟の喜び」のステージに登れる訳ではありません。特に、昨今の悪しき成果主義下では、以前よりも人間的成熟の障害が増えています。

 次世代リーダーを育成するには、儲けるためにどうするかといった勉強や実務経験では足りないのです。