アフターコロナの人事マネジメントは、高付加価値を生み出せる人事制度等です。簡単に言えば、顧客が「思わず欲しくなるような製品・サービス」を生み出す事を支援・促進できる人事戦略です。高付加価値を生むためには「イノベーション創出」が必須で、その実現には「人々の協働」が不可欠です。現在はコロナ禍で苦しい状況ですが、そこで場当たり的な対策をとると、失われた20年が40年になってしまうでしょう。そうならないように、withコロナの今にこそ、将来のビジョンを提案いたします。

【結論】Society 5.0へと社会が発展しても、人材も次のステージへ成長しなければ、高付加価値製品・サービスを生む事はできません。(人材が次のステージへ成長する方法を解説します。)

【ポイント】
 キーポイントは「社員の成長欲求を、顧客満足のフィードバックで満たす」コンセプトで次の改善策を統合し、バランスをとる事です。

  • 支援型リーダーシップを取り入れる
  • 内発的動機づけを取り入れる
  • 人材育成を中長期的に行う

 この記事は経営コンサルタントの加藤昌男(資格:中小企業診断士、日本生産性本部認定経営コンサルタント資格)が執筆しました。最新の著書をベースにしています。自分で研究・実践した内容で独自性が高い一次情報です。
コンサルタント加藤昌男
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1.30年間もの停滞をどう乗り越えるか

 日本企業は様々な景気変動を乗り越えてきました。しかし、失われた20年は30年になろうとし、また若者が3年で3割離職する状況も20年以上続いています。様々な管理技術やIT技術が飛躍的に進歩した事を考えると、それでも失われた30年になってしまった原因についてよく考える必要があります。これだけ長期に渡り停滞が続いている要因の一つは、人事マネジメント分野に次のような弱点がある為です。(内容は後述します。)

  • 管理偏重(コントロール型の管理技術偏重)のマネジメント
  • 外発的動機づけ偏重の人事制度
  • 人材育成機能が弱い
  • 組織のパフォーマンスが向上しない

2.政府の政策提言にみる問題意識「Society 5.0」ビジョン

 アフターコロナの企業経営はどうあるべきか考える前提として、日本が目指している「Society 5.0」を簡単に説明します(内閣府の資料より)。

(1)Society 5.0とは

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
Society 5.0とは

狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。

(資料出所:内閣府、「https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/」)

Society 5.0では、フィジカル空間のセンサーからの膨大な情報がサイバー空間に集積されます。サイバー空間では、このビッグデータを人工知能(AI)が解析し、その解析結果がフィジカル空間の人間に様々な形でフィードバックされます。今までの情報社会では、人間が情報を解析することで価値が生まれてきました。Society 5.0では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされることで、これまでには出来なかった新たな価値が産業や社会にもたらされることになります。
Society 5.0のしくみ

(資料出所:内閣府、「https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/」)

3.現在の情報社会(Society 4.0)の弱点「知識や情報が共有されない」

 アフターコロナの企業経営はどうあるべきか考える前提として、「現在の情報社会(Society 4.0)の弱点」を簡単に説明します(内閣府の資料より)。

これまでの情報社会(Society 4.0)では知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分であるという問題がありました。人が行う能力に限界があるため、あふれる情報から必要な情報を見つけて分析する作業が負担であったり、年齢や障害などによる労働や行動範囲に制約がありました。また、少子高齢化や地方の過疎化などの課題に対して様々な制約があり、十分に対応することが困難でした。

(資料出所:内閣府、「https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/」)

4.企業がSociety 5.0で高付加価値を生むために必要なもの

 Society 5.0は「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出す」ことがポイントです。しかし、「企業が高付加価値の商品・サービスを生む」という視点からは、上述のビジョン以外に「個人の知的財産(仕事のノウハウ)」を共有できるようにする取り組みが必要です。

(1)個人ノウハウはサイバー空間には上がらない情報

 上述の通り何かのセンサーによって拾いあげられた情報しかサイバー空間には吸い上げられません。例えば、重要な仕事のノウハウ等は個人の生活のベース(稼ぎの元ネタ)になりますから、易々と公開するはずがありません。

 この問題意識は、拙著『超・成果主義』(「個力を引き出し 強い組織をつくる『超・成果主義』」2005年、加藤昌男著、日本経済新聞社)にて「成果査定主義は働く仲間をライバルにするからノウハウを個人が囲い込むなど知的協働が進まないため、イノベーション創出が阻害される」と提言しました。残念ながら、この提言は当たり、失われた20年は30年になろうとしています。様々な管理技術やIT技術が飛躍的に進歩した事を考えると、それでも失われた30年になってしまった原因についてよく考える必要があります。

 上述の「これまでの情報社会(Society 4.0)では知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分であるという問題がありました。」という問題意識と同じです。

(2)重要な仕事のノウハウを公開するキーポイントは社会貢献性

 重要な仕事のノウハウ(個人にとっては富を生む宝)を公開するキーポイントは社会貢献性です。つまり、一個人の損得だけでなく(それも重要ですので)世の中に役立つ仕事をしようと考えるときに、宝物(個人ノウハウ)を公開してもよい気持ちになるのです。これは、心理学で言うところの「自我の飛躍」です。簡単に言えば「自分ひとりが良ければよいということではないんだな」という考え方を取り入れる事です。

5.現在の人事マネジメントの弱点

 現在の人事マネジメントの弱点は次の通りです。これらは高付加価値を生むために改善する必要があります。

  • 管理偏重(コントロール型の管理技術偏重)のマネジメント
  • 外発的動機づけ偏重の人事制度
  • 人材育成機能が弱い
  • 組織のパフォーマンスが向上しない

6.高付加価値創造型人事マネジメントを実現する為の3つの改善策

 高付加価値創造型人事マネジメントを実現する為の3つの改善策は次の通りです。

  • 支援型リーダーシップを取り入れる
  • 内発的動機づけを取り入れる
  • 人材育成を中長期的に行う

 具体的には三つの言葉ツールを使って内発的動機づけ・支援型リーダーシップを行います。「三つの言葉」ツールは使いやすい実践的ツールなので、多数のリーダー・管理職に使いこなせ組織的に展開できるため、マネジメントを効果的に改善できます。また、心理学的背景を有しモデル化されたツールなので、組織内で広く安定して実践できます。

(1)内発的動機づけを取り入れる

  • ①外発的動機づけ:フェアーな処遇を実現(大差をつけて社員間競争を煽らない)。
  • ②内発的動機づけ:社員一人ひとりの「心豊かな職業人生を支援する」施策を行う。

 誰にでも簡単に使える「内発的動機づけのツール」(3つの言葉)を創出し活性化ワークショップ等を実施します。

 第一の言葉「仕事をしていて嬉しかった体験がありますか?」を使うワークショップは部下に自分達の考え方・価値観を押し付けず、上司先輩のポジティブな仕事体験を語り、部下が共通する喜び(貢献欲求の働きがい)に自ら気付く支援を行います。

 内発的動機づけが誰にでも簡単にできれば、外発的動機づけに偏重した人事マネジメントを改善できます。故に知的協働のための社会的資本(深い相互理解と信頼関係、支援・協働しあう仲間意識、貢献欲求の共有、真摯な意思疎通)を育てられます。

(2)支援型リーダーシップを取り入れる

 第二の言葉「仕事で何か困っていることはありませんか?」、第三の言葉「あなた一人でなく私と一緒に考えましょう」は、仕事のポジティブ体験を若手社員が自ら体験できるように(仕事が成功するように)支援する言葉でOJTで使います。お客様・仲間が喜ぶ→私も嬉しい→もっと良い仕事をしたくなるプラスのサイクルが回り出します。これが仕事の楽しさを生み、次世代貢献マインドを育てます。

(3)人材育成を中長期的に行う:「全人的成長」への支援

 人材育成を中長期的視点から行い、社員の「心豊かな職業人生の実現」を支援すると、社会人として段々成熟していきます。これが「全人的成長」です。(かつては人間力などと言っていましたが、それでは客観性が不足し、PDCAのサイクルを回す事が出来なかったのです。)ビジネスパーソンとして、人間的に成熟していくことが非常に重要なのです。

 ビジネスパーソンとして成熟すると、社会貢献マインド・次世代貢献マインドが芽生えてくるのでイノベーション創出を促進します。

  • 社会貢献マインド:お客様(他者)に喜んでもらいたいという気持ちから、お客様に親身になり、潜在的ニーズがつかめるようになります。
  • 次世代貢献マインド:お客様第一とは言いながら、お客様は素人なので最善の選択肢を選べません。しかし、より良い社会を作りたいという次世代貢献マインドが育つと、表面的なニーズを超えて「より良い世界を提案できる」ようになります。だからこそ、イノベーションを創出できるようになります。

7.高付加価値創造型人事マネジメントを実現する為のキーポイント

 上述の3つの改善策は、非常に具体的で実現可能です。しかし、バラバラに実施しては相乗効果が生まれません。そこで、この3つの改善策を上手に連携させ相乗効果を高めるキーポイントを説明します。

 キーポイントは「社員の成長欲求を、顧客満足のフィードバックで満たす」事です。
 この考え方、視点を取り入れる事で、全ての具体的改善活動やツールが統合され、人事マネジメント革新に繋がります。