組織のパフォーマンスを高め、業績を向上する良い方法があります。それはコンピテンシーをナレッジ・マネジメントの一環として使う方法です。コンピテンシーは、組織の知恵を短文化したもので、ナレッジそのものなのです(文章により誰にでも解るように共有化できるようにしたナレッジそのもの)。
 ですから、コンピテンシーを上手に活用する場合は、「知識創造理論」を参考にして、様々な方法が工夫できます。その良い方法をご紹介します。

 若干理屈っぽいですから、ナレッジ・マネジメント等にご興味がおありの方だけ、ご参考までにお読みください。(このように、表面に出ない方法論などをいろいろ考えて、お役に立つコンピテンシー活用法を提案させていただいております。)

1. コンピテンシー=ナレッジ:知識創造活動の一環として活用する知創型コンピテンシー

 知創型コンピテンシー・マネジメント・システムにおいては、コンピテンシーは知識創造活動の一環であるとの視点に立ちます。■表3-1に、ナレッジ・マネジメントと知創型コンピテンシー・マネジメント・システムの関係を整理しました。

■表3-1ナレッジマネジメントと知創型コンピテンシー・マネジメント・システム
ナレッジマネジメントと知創型コンピテンシーの類似性解説 目に見えないノウハウ・ソフトな経営資源が「暗黙知」「個人知」として組織の中に眠っています。その中から「高業績につながる行動パターン」という知識を取り出せば、まさにコンピテンシーになります。(■図3-15参照)

 そのコンピテンシーを整理分析して、明確に文章で記述すれば「形式知」と呼ばれ誰にでも理解できる状態になります。それを組織で活用することが出来れば「組織知」に高まります。そして、その組織の中にあった貴重な知恵を共有化し行動に移してゆくことで高業績を達成することにつながります。

■図3-15コンピテンシーとナレッジの関連

コンピテンシーとナレッジの類似性イメージ図

 組織的な分析や検討を経て、「コンピテンシーを励行することが高業績につながる」という考え方と具体的な行動事例(コンピテンシー)は、まさにナレッジ・マネジメント(知識創造活動の第二段階)で言うところの「ナレッジ:経営に役立つ知識」なのです。

 下図に見るように、企業の財務的業績を高めるためには、多様な視点で様々に行動することが求められます。その中で、このように行動することが最善である方法を見つけ出すことが、ナレッジ・マネジメントでいえば「ベストウエイ」と呼ばれるナレッジです。

 そのナレッジ(ベストウエイ)群の中からキーポイントを抜き出すと、コンピテンシーができ上がるのです。つまり、「ナレッジを要約することで、具体的な行動レベルのコンピテンシーを創り出す。」わけです。これが知創型コンピテンシーです。

■図3-16財務的業績を高めるKnowledge(ベストウエイ)のキーポイント≒Competency

財務的業績を高めるベストウエイのキーポイントがコンピテンシー

 下図は野中郁次郎教授が提唱された知識創造理論のSECIモデルの概要と、知創型コンピテンシーをSECIモデルに添って説明した概念図です。知創型コンピテンシーは知識創造理論のSECIモデルが明らかにした知識創造過程と同じ様に、スパイラル状に成長発展してゆきます。

■図3-17知識創造理論のSECIモデルと知創型コンピテンシーの関係図
知識創造理論のSECIモデルと知創型コンピテンシーの関係図資料出所:1.野中郁次郎・竹内弘高(梅本勝博訳)『知識創造企業』東洋経済新報社、1996年。2.ゲオルク・フォン・クロー、一條和生、野中郁次郎『ナレッジ・イネーブリング』東洋経済新報社、2001年。

2. コンピテンシーとナレッジ・マネジメントの融合

 ナレッジ(= 経営活動に役立つ知識)からコンピテンシーを生成することで、様々な相反する要素を満足させる事が可能となります。ダイナミックなナレッジとしてのコンピテンシー(下図の左側)とマネジメント・システムに活用する安定的なコンピテンシー(下図の右側)の両立ができるのです。

 まず、ナレッジのデータベースからナレッジの内容を要約する手法で作り出された具体的行動レベルのコンピテンシーを「知創型コンピテンシー」と定義します。ナレッジとは、「経営活動に役立つ知識」という定義ですから、高業績につながるコンピテンシーよりも広い範囲の知識が対象になります。従って、量的には「ナレッジ>知創型コンピテンシー」という関係になりますが、質的には知創型コンピテンシーの方が高度な知識になります。

 そして、このナレッジと知創型コンピテンシーのレベルは、まさに知識の活火山であり、新鮮でホットな知識がぐつぐつ煮えたぎっている状態です。非常にダイナミックな知識のデータベースの状態です。

 その知識のマグマの中からマネジメント・システムに使うための知創型コンピテンシーを抽出します。マネジメント・システムに使う知創型コンピテンシーは、ある程度安定した状態に保たれます。マネジメントの指標・ガイドラインとして活用するためです。

■図3-18知創型コンピテンシーを作り出す構造
知創型コンピテンシーを作り出す構造イメージ図

 この知創型コンピテンシーは、従来の評価制度に活用する事を主眼に作られた汎用的なコンピテンシーとは異なり、次のような特徴があります。

①知創型コンピテンシーは、要約する基になったナレッジにより、修得することが可能です。従って、実際に知創型コンピテンシーを発揮する(行動する)事で継続的に高業績を達成する事が出来きます。

②具体的行動レベルで表現された知創型コンピテンシーは、評価する際に非常に明快な評価基準となり、運用する際に大きな助けとなります。「考え方は素晴らしいが、実際に評価するのは難しい」という従来型コンピテンシーのデメリットを解消できます。

3. コンピテンシーの意義は知識にあらず:どの様に行動すれば高業績を達成できるか考え続けるシステムにあり

 誤解を恐れずに、ズバリ言わせていただきますと、コンピテンシーが提示する「高業績につながる行動パターン」という知識自体には限界があります。コンピテンシー戦略の本当の価値は、コンピテンシーとして記述された行動パターンという「知識」自体には無いのです。その知識を知っているとか覚えているということに価値があるのでは無いのです。

 コンピテンシー戦略の本当の価値は「どの様に行動すれば高業績を達成できるか、それを常に考え続け、新しい知識を生み出し、その新知識を組織全体で共有化し行動に移す仕組みを築き上げ、P・D・C・Aのマネジメント・サイクルを回すこと」にあります。

■図3-02コンピテンシーの意義:知識<知識を生むシステム

コンピテンシーの意義:知識より知識を生むシステムが大切

 そう考えると、どうしても知識創造型のコンピテンシーでなければならないわけです。評価制度としてコンピテンシーを活用する際に、コンピテンシーの改善改良が行われなければ、陳腐化した行動事例短文に社員を押し込めることになり、本来のコンピテンシー戦略のねらいと全く正反対の働きをしてしまうのです。

 ■図3-21のように、知創型コンピテンシーの母集団となるナレッジ(コンピテンシー・データベース)は、頻繁に改善され、鮮度維持が図られます。このデータベースは非常にダイナミックなところに価値があります。どの様に経営活動に役立つかという視点で集められたナレッジですので、量的には制限はありません。

 一方、コンピテンシー・シート(マネジメント・システム)に採用されるコンピテンシーを選び出す基準は、「高業績につながるかどうか」であり、ナレッジを選び出す基準よりも一層厳しいものです。そして、選び出す手続も、組織のルールに則り合議により決めなければなりません。そうした制約が加わることにより、コンピテンシー・シート(マネジメント・システム)の安定性も実現できるのです。また、コンピテンシー・シートに乗せるには数に限度があります。

 新しい知識と言うものは、仕事を通して生まれてきます。決して机上の推論からではありません。したがって、コンピテンシー・シート(マネジメント・システム)を運用している最中にも、価値ある知識が生まれれば、それを「空欄」に追加できるように配慮してあります。

■図3-21コンピテンシー戦略は本来「常に考え続ける意義」概念図

コンピテンシー戦略は常に考え続ける意義

 この「新しいコンピテンシーを随時追加可能」な仕組を内蔵した、知創型コンピテンシー・マネジメント・システムの基盤には「どうやったら高業績が達成できるのだろうか?」と探求し続ける意思があります。これこそが新しい知識の創造であり、「知識創造」活動の第3段階「3.ナレッジ・イネーブリング」へ一歩足を踏み入れることが可能になるのです。

4. コンピテンシーを知識創造の視点から活用する人事戦略

 コンピテンシーを知識創造理論の視点からとらえると、「どうしたら高業績をあげることができるか組織ぐるみで考え、一人ひとりの行動を改善し続ける。」という大きな意義が生まれます。

 従来は一般的には「コンピテンシーという高業績につながる行動パターンを明らかにして、それを皆で真似をし励行することで組織全体のパフォーマンスを高める。」というのがコンピテンシー戦略でした。いわば行動パターンのベンチマーキングです。

 しかし、この「コンピテンシーの真似をして励行してみる」レベルでは、コンピテンシーが逆に社員の行動パターンを一定の枠にはめ込むことになりかねません。コンピテンシーを盲信すれば、コンピテンシーが陳腐化した場合に大きなデメリットが発生します。そして、今日の環境変化のスピードは非常に素早く、かつその変化の規模も大きなものになりがちです。つまり、コンピテンシー研究が本格化した1982年と比べて、今日ではコンピテンシーは思ったより早く陳腐化してしまいますので、新たな工夫が必要なのです。

(注:コンピテンシーは1970年代からマクレランド(David.C.McClelland)などによって研究されていたのですが、1982年にボイヤティス(Richard.E.Boyatzis)が約2000人の管理者(12の組織、41の管理職職務)に対してジョブ・コンピタンス・アセスメント法(The Job Competence Assessment Method)という方法を用いて、「仕事の成果」と「能力」の関係を調査し、『The CompetentManager : A Modelfor Effective Performance』という本にまとめました。

 従って、高業績達成に貢献できるコンピテンシー人事戦略とは、次のような新たな工夫を備えた内容が望ましいのです。

  • コンピテンシーという行動パターンを一つの手本として活用して自らの行動改善ができる能力を開発すること。
  • コンピテンシーを一つの手本として活用して自らの頭で考え、さらによいコンピテンシーを創造できるような能力を開発し、そのためのシステムと場、インセンティブの仕組まで総合的に最適化する。

 そして、これこそ知創型コンピテンシー・マネジメント・システムなのです。知創型コンピテンシーを技術的な基礎として、マネジメントの革新をもたらすために新しい発想と技術的な創意工夫が盛り込まれたシステムが「知創型コンピテンシー・マネジメント・システム」です。

5. 知創型コンピテンシーで従来型コンピテンシーの弱点克服

 従来型コンピテンシーには、「確かにこの行動パターンが高業績につながる事は理解できるが、どうやったら実行できるのか?その方法が解らない。」「コンピテンシーの示す行動パターンを、実際には実行し難い。」という大きな弱点がありました。

 しかし、ナレッジをベースとして行動のキーポイントを示す知創型コンピテンシーの場合には、そのコンピテンシーを生成する基礎となったナレッジに立ち帰ることで、実行するための知識・情報が得られます。単に「このように行動すべき」という短文だけでなく、コンピテンシーを行動にうつすための有益な情報(ナレッジ)と有機的に連係しています。

 そして、このナレッジにアクセスし学ぶことで、「コンピテンシーの示す行動パターンを、実際には実行し難い。」という大きな弱点を克服することが出来ます。

 また、従来型コンピテンシーには次のような弱点もあります。

  • 社員を型にはめ創造性や自由な発想を阻害します。
  • 新たな高業績達成の方法を探さなくなります。
  • 一旦作ったコンピテンシーも顧客ニーズや環境の変化で陳腐化しがちです。

 こうした弱点に対しては、知識創造を重視した知創型コンピテンシーの「常に改善し知創型コンピテンシーの鮮度維持をする」という特徴が有効なのです。

■表3-2従来型コンピテンシーの弱点と知創型コンピテンシーによる対策

従来型コンピテンシーの弱点

知創型コンピテンシーによる対策

・コンピテンシーの示す行動パターンを、実際には実行し難い。

・コンピテンシーを行動にうつすための有益な情報(ナレッジ)と有機的に連係しているので、容易に学べる。

・社員を型にはめ創造性や自由な発想を阻害します。

・知創型コンピテンシーは行動パターンの好例であり、現実の仕事の場で生まれた新しい知識(新しいコンピテンシー)を直ぐに評価システムに追加できる柔軟性がある。

・新たな高業績達成の方法を探さなくなります。

・知創型コンピテンシーは好例に過ぎず、常に改善鮮度維持すべきだという仕組が内蔵されている事で、意識付けになる。

・一旦作ったコンピテンシーも顧客ニーズや環境の変化で陳腐化しがちです。

・過去の基準である知創型コンピテンシー以外に、高業績につながる行動をしたならば、直ぐに評価システムに追加でき、自分の貢献度を現実に即して評価してもらえる加点性があるため、「新しいコンピテンシーを追加しよう」という動機付けになる。