フロンティア型グローバル人材育成!グローバル・ハイパフォーマー

 「グローバル・ハイパフォーマー」とは、我が国企業のグローバル事業において、継続的に優れた成果をあげてきた人材である。グローバル・ハイパフォーマーになるには「人間的な成熟」が重要であることに気付く。我々日本人が人間的に成熟し、世界に通用する優れた個に成長するヒントを紹介する。

目次

1.マネジメント型グローバル人材とフロンティア型グローバル人材

(1)マネジメント型グローバル人材とフロンティア型グローバル人材の定義

 今日のグローバル人材には、マネジメント型グローバル人材とフロンティア型グローバル人材の2つのタイプがある(早稲田大学白木三秀教授によるご教授)。その2つを以下に簡潔に定義する。

A.マネジメント型グローバル人材

 (既に存在している)海外現地法人のマネジメントを主な役割とするのがマネジメント型グローバル人材である。(従来型グローバル人材)

B.マネジメント型人材の活躍地域例

 タイ、マレーシア、インドネシア等、プラザ合意前後で進出している現地では、操業も安定しているので、現地人による組織をマネジメントできる、「マネジメント人材」が求められる。

C.フロンティア型グローバル人材

 開発途上国市場ゼロからニーズを創造し事業化したり、新たに現地法人を立ち上げるのがフロンティア型グローバル人材である。(環境変化により生起したグローバル人材のニーズ)

D.フロンティア型人材の活躍地域例

 バングラディッシュ、インド、ベトナム等、これから成長する開発途上国に足がかりをつけるには、ミッションを自身でつくり、切り込んでいくことができる、語学も含め十分なサバイバル力をもつ「フロンティア人材」が求められる。

(2)フロンティア型とマネジメント型の2つの育成パターン

A.マネジメント型グローバル人材の育成

 マネジメント型グローバル人材の育成や管理に関しては、これまでも継続して研究されてきた。様々なノウハウや知識が蓄積されてきていると思われる。これは、国内で活躍するマネジメント人材のための育成プログラムが多数存在することからも窺い知れる。

B.フロンティア型グローバル人材の育成

 その一方で、フロンティア型グローバル人材の育成や管理は、これから更に研究されるべきチャレンジングな領域である。ゼロから何かを作り出す、という能力を教えられるのだろうかという疑問も湧く。
しかし、日本は様々な技術革新(フロンティア型企業行動)によって発展を遂げてきたという実績もある。

2.グローバル・ハイパフォーマーとは何か

(1)グローバル・ハイパフォーマーの定義

 「グローバル・ハイパフォーマー」とは、我が国企業のグローバル事業において、継続的に優れた成果をあげてきた人材である。
(人事評価制度のためのコンピテンシーを設計する場合とは、分析の方法、分類基準、そして能力の表現も異なることを付記しておく。)

(2)グローバル・ハイパフォーマーの能力一覧

 グローバル・ハイパフォーマー調査分析においては、まずグローバル・ハイパフォーマーからヒアリング調査を行った。
そのヒアリング内容(グローバル・ハイパフォーマーの発言内容)を整理分析し、①から⑨の「優れた成果を達成するための実践的能力」を作成した。

① 相手を尊重し信頼関係を築くことができる実践的能力。
② 実際に海外の現場に立って全身で感じ自らの頭で考えることができる実践的能力。
③ 全体が満足するように努力することができる実践的能力。
④ 過去の経験から上手に学ぶことができる実践的能力。
⑤ 自分たちの強み弱みを客観的に把握し自らのビジネスプロセスを改善・改革できる実践的能力。
⑥ 日本的経営を思慮深く現地に合わせ改良することができる実践的能力。
⑦ 視点の転換を呼び起こす体験・機会を活かす、もしくは機会を自ら創造することができる実践的能力。
⑧ 精神的タフネスを増強するように自ら視点を転換することができる実践的能力。
⑨ 広く浅く全体を総合的に見る・未来志向のリテラシーができる実践的能力。

3.グローバル・ハイパフォーマーの実践的能力

 グローバル・ハイパフォーマー分析から得られた「グローバル・ハイパフォーマーの発揮した実践的能力」は次の(1)から(9)の通りである。

(1)相手を尊重し信頼関係を築くことができる

 「相手を尊重し信頼関係を築くことができる」という実践的能力は、以下のような内容である。
a)他者の尊重(←個の確立が背景)
b)価値観の違いを受け入れる→許容、共感→信頼関係
c)現地社会・現地人の尊重(前提)→理解、許容、共感
d)協力
c)現地スタッフを尊重し上手な役割分担を行う
d)信頼関係構築
e)人と人の信頼関係重視:非会社人間

(2)実際に海外の現場に立って全身で感じ自らの頭で考えることができる

 視点という概念(頭の中のアイデア)ではなく、実際に海外の社会(現場)に立って、そこから顧客や現地社会を見つめて発想する。
「実際に海外の現場に立って全身で感じ自らの頭で考えることができる」という実践的能力は、以下のような内容である。
a)現場に立って全身でニーズを把握し製品・サービスを改良・改革することができる
b)現場の専門的な仕事のスキル(事業・仕事に固有のスキル)
c)素早い行動力・あきらめない意志力(頭でっかちはだめ)

(3)全体が満足するように努力することができる

 これは、事業に関わる全員がWin-Winな関係となろうというスローガンや概念にとどまらず、総合的で全体的なアプローチで矛盾や対立を創造的に越えるという「高度な創造性」が求められる。

(4)過去の経験から上手に学ぶことができる

 「過去の経験から上手に学ぶことができる」という実践的能力は、以下のような内容である。
a)過去の進出事例の失敗に学び次の成功に活かす
b)経験の成長させる力で次の成功のチャンスをつかむ

(5)自分たちの強み弱みを客観的に把握し自らのビジネスプロセスを改善・改革できる

 ビジネスプロセスとは、例えば仕事のやり方・組織の意思決定機構などである。
ヒアリング結果から抽出されたa~e)のような強み・弱みを客観的に把握し、自らのビジネスプロセスを改善・改革できるという実践的能力を身につけることが優れた成果に繋がると思われる。
a)日本人は誠実であり約束を守る
b)日本の弱みに関する認識の欠如
c)意思疎通ができることを当たり前と思い込んでいる
d)意思決定スピードが遅い
e)日本人はネゴシエーションが苦手

(6)日本的経営を思慮深く現地に合わせ改良することができる

 思慮深さ:「あれかこれか、単純化」ではなく「複雑なものへ真摯に対処する」という意味で用いた。日本と全く異なる環境の海外で、日本的経営を機能させるには思慮深さが必要と考えられる。

(7)視点の転換を呼び起こす体験・機会を活かす、もしくは機会を自ら創造することができる

 自分自身のコアな強固な価値観は変えがたい。しかし、異なる文脈(日本とまったく違う状況)に自分自身を叩き込むことで、視点の転換を呼び起こす。視点が変われば、コアな価値観は同じでも、判断・思考や行動は異なってくると考えられる。

(8)精神的タフネスを増強するように自ら視点を転換することができる

 精神的タフネスを短期間に鍛えることは難しいが、視点を転換することでタフネスの発揮水準が高まると考えられる。(意義あることには挑戦するし、苦労にも耐えられる等。)
「精神的タフネスを増強するように自ら視点を転換することができる」という実践的能力は、以下のような内容である。
a)精神的タフネス
b)信念・使命感・志

(9)広く浅く全体を総合的に見る・未来志向のリテラシーができる

 「広く浅く全体を総合的に見る・未来志向のリテラシーができる」という実践的能力は、以下のような内容である。
a)物事を多角的・鳥瞰的に把握
b)未来志向プランニング、企画力のある人
c)なんでもできる広い仕事のスキル

4.グローバル・ハイパフォーマーを育成するヒント

(1)グローバル事業でハイパフォーマンスを発揮するには人間的な成熟が重要

 上述の実践的能力を全体的に見てみると、グローバル・ハイパフォーマーになるには「人間的な成熟が重要」であることに気付く。
自分と異なる価値観・信念を持ち、自分と異なる方法で仕事を行う他人を認め、尊重し、協働してより優れた価値を創造できるのは「成熟した人間」でなければできないと思われる。
さらに、実際に海外に赴きグローバルな視点に立った時に、「変わるべきは自分自身ではないのか?」と気付きアンラーニングできるのは、「成熟した人間」にこそ可能なことであろう。

 「成熟した人間」になるには通常はじっくり長い時間をかけて様々な経験をし、人生を過ごすことで人は成熟していくと考えられる。しかし、優れた経験、成長につながるように配慮されたビジネス経験(研修として企画された海外インターンシップなど)を積めば、「人間的成熟」を加速することも可能であろう。

(2)次世代までも視野に入れた社会貢献の意識

 開発途上国市場においてゼロから何かを創造するためには、グローバル人材の定義に記述されている「次世代までも視野に入れた社会貢献の意識」により自分自身の視野を拡張することが必要と思われる。開発途上国でビジネスを展開することは、開発途上国の社会を築くことにつながっている。
そして、この「次世代までも視野に入れた社会貢献の意識」は、人間的な成熟先に生まれてくる意識であることに注目すべきであろう。

 こうして考えてみると、グローバル人材育成の意義は単に産業界の改革と発展のためだけではなく、一人ひとりの日本人が人間的に成熟し、まさに世界に通用する優れた個に成長する意義もあると考えても良いのではないだろうか。
グローバル人材の定義:グローバル人材とは、グローバル化が進展している世界の中で、主体的に物事を考え、多様なバックグラウンドをもつ同僚、取引先、顧客等に自分の考えを分かりやすく伝え、文化的・歴史的なバックグラウンドに由来する価値観や特性の差異を乗り越えて、相手の立場に立って互いを理解し、更にはそうした差異からそれぞれの強みを引き出して活用し、相乗効果を生み出して、新しい価値を生み出すことができる人材。)

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