このページは「人材育成-組織活性化重視!人事制度改善-改革テキスト」の第1章 マネジメント指向型人事制度 がテーマです(コンセプト、基本的考え方をご紹介します)。
 本テキストで論述する、マネジメント指向型“組織・人材活性化重視”の人的資源管理は、顧客満足に指向しバランスの取れた成果向上努力を継続して行うための、マネジメントシステムである。
 従来の人事管理制度とは、「成果を創り出し、戦略目標を達成して経営に貢献する」ための人的資源管理システムである点が最大の相違点である。

1.マネジメント指向型人的資源管理の意義

 人事制度とは、経営への貢献を第一の目的とした一つの経営サブシステムである。人事制度は、経理システムや業績管理システム、経営計画などの他の経営サブシステムと密接に関連しながら、経営目標を達成するために人的資源を役立たせるように設計される必要がある。

 換言すれば、経営への貢献こそ人事制度の最大の目的なのである。まず、企業経営の役に立ち、そして従業員に働きがいとやる気をもたらし組織に活力をみなぎらせるような人事制度を創るように心がけなければならない。管理すること自体が目的の人事制度では、その管理偏重の人事制度が如何に論理的で精密であっても、活用する側から見ればいたずらに複雑で使いにくい制度になってしまいがちである。活用する主体である経営者と、運用の担い手である管理者の立場に立って、使いやすく効果的な人事制度を設計することが肝要である。

2. 成果を創り出す“組織・人材活性化重視”人的資源管理

 顧客のニーズが高度化し、必然的に質量共にハイレベルな労働の成果を求められる今日では、人的資源管理はマネジメント指向の“組織・人材活性化重視”システムでなければならない。従来の人事管理制度は、残念ながらマネジメント指向の“組織・人材活性化重視”システムではなく、「悪い品質のものができたら弾き出し、品質を保つようにコントロールする」といった古い管理概念に基づくものであった。豊富な労働力が低廉に確保できた時代、先進国へのキャッチアップの時代はそれでもよかったのかもしれない。しかし、成熟した経済発展段階の21世紀を迎え、激しい企業間競争に勝ち残りをかける現代では、成果を創り出す“組織・人材活性化型”の人的資源管理でなければ組織の発展は期待できない。

 人的資源管理システムを設計し運用する際に重要なのは、自分達の実情に合った、総合バランスの取れたシステムにすることである。具体的には、バランスト・スコアカードや顧客満足理論を取り入れた人的資源管理システムを設計し、運用することが必要不可欠なのである。最新流行の技法を取り入れたところで、全体とのバランスを欠いたり、技法の本質を見誤り使い方を間違えれば、世に言う「成果主義の崩壊」が待っている。

 成果を創り出す、マネジメント指向型“組織・人材活性化重視”の人的資源管理システムの体系は、次の図表のとおりである。

■図表 マネジメント指向型“組織・人材活性化重視”の人的資源管理システムの体系
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 まず、役割等級制度は人的資源管理システム全体の背骨となるもので従業員を「役割」のグレードを基準として分類し、社内における地位(等級)とする制度である。この「役割」のグレードに対応して能力給や役割給が支払われる(能力・成果対応賃金)。そして、期待されるコンピテンシーの発揮度・目標の達成度を測るのが人事評価制度である。

 人事評価の結果は様々な処遇に反映される。まず、賃金処遇には毎年の昇給額の多寡として反映される。評価が悪ければ、昇給額ゼロも有り得るため、定期昇給と呼ぶのは今や適当ではない。いわば、成果昇給であり年功性は少ない。さらに、役割給制度を導入する場合には役割給額のアップダウンに反映される。賞与に対しては特に反映の程度を大きく設定し、「成果をあげた者、頑張った者が報われる」フェアーな賃金処遇の実現を目指す。地位的処遇に対しては、人事評価の結果の累計で昇級が決定され、役職への任命も評価結果の良い者から選任されるのが原則である。(ただし、役職への任命には適性把握が重要であるため、別途アセスメントが行われる。)さらに人事評価結果は能力開発や異動・配置にも活用される。

 このように、人的資源管理システムはいくつかのサブシステムが有機的に結びついて関連し合いながらトータルシステムとして機能しているのである。

3. 人的資源管理と経営計画の統合

 人的資源戦略は、基本戦略の一部(機能戦略)であり不可分の存在であることは議論の余地がない。さらに21世紀を迎え、従来の能力主義から「成果主義」という業績重視の人的資源管理に発展するに及んで、人的資源管理は経営計画と統合されるべき時を迎えた。その理由は、成果主義が業績評価に用いるツールは、経営計画でなければならないからである。基本戦略実行のための行動計画たる「経営計画」の業績評価指標と、人が働いた結果としての業績(成果とも呼ぶ)を評価する基準(目標管理)がずれれば、組織の中に業績評価のダブルスタンダードが生まれ混乱し、緒力を結集することができない。企業経営の組織業績は、様々なビジネスプロセスおよび経営資源を、ビジョンと戦略に向け集中することで大きく飛躍するのであるから、業績評価基準の矛盾のもたらすデメリットは極めて甚大である。(これが従来の成果主義が崩壊した理由の一つでもある。詳細は、拙著『超・成果主義』日本経済新聞社、2005年を参考されたい。)

 したがって、従来の人的資源管理は学際的アプローチを取り入れ、経営計画との統合を明確に意図して再設計される必要がある。

 また、マネジメントとはビジネスプロセス・経営資源を合理的に計画し、効率的かつ効果的に遂行し、その進捗プロセスを管理・改善して予定した成果を達成し、さらにより一層の改善を目指す一連の努力である。最新の人的資源管理もPlan・Do・Check・Kaizenというマネジメント・サイクルを基盤とするマネジメント指向型人的資源管理に発展する必要がある。従来の成果主義はコントロール指向型(査定主義)に過ぎなかった。それが悪しき成果主義を崩壊させた第二の理由である。

 本テキストで展開するのは、こうした最新の隣接諸科学の理論を取り入れ「成果を生み出すマネジメント・システム」として発展させた最新の人的資源管理体系である。

4. 人的資源管理の目的

 人的資源管理の目的は、まず「労働生産性の向上」をとおして、企業業績の向上に貢献することである(企業業績とは会社全体の業績である、個人業績・短期業績より広い概念である)。従業員一人当たり付加価値や売上高等の向上を目指す。そして、労働生産性の向上を長期に渡って実現するために、社員の能力開発を行う(人材育成の重視)。労使関係や部下と上司の関係、チームワークの形成などにより、「企業組織の秩序の維持・向上」を図る(組織活性化の重視)。さらに、この2つを実現・維持するために、従業員にやりがい・働きがいを提供し、福祉を向上させ、有意義な職業生活を送れるようにすることも重要である。

 また、人的資源管理を考えるときに見逃してはならない大切な視点がある。それは、他社よりも優れた人的資源により、競争に打ち勝ってゆこうとする戦略である。人的資源を競争に打ち勝つための戦略的な資源としてアグレッシブにとらえることが重要である。

 この様に考えることで、従来は単なる経営のコスト(人件費)としか考えられなかった人的資源が競争戦略上の重要な要素としてはじめて脚光を浴び、前向きでアグレッシブな人的資源戦略が策定される。

5. 人的資源の特性

 従来から経営の三要素(人、物、金)の一つとして人的資源は語られてきたが、他の要素にない特徴がある。すなわちそれ自体が意思と感情を持った一人ひとりの人間なのだと言う点である。考えようによっては厄介な対象でもあり、またその資源としてのパフォーマンスの柔軟性ゆえに上手く管理して行けば企業発展の原動力にもなり得るのである。

 さらに、目に見えない経営資源であるノウハウ(情報資源)は人に付随しており、密接不可分である。人を上手に管理することが、不可視の経営資源を上手に管理することにつながり、属人的ノウハウを組織全体で共有化して発展させることも可能となる。逆に、ノウハウを持つ従業員の勤労意欲やチームとしての協働意識が低下すれば、不可視の経営資源はいつまでも無形のままで、組織業績の向上に寄与しないであろう。その意味で、最新の人的資源管理は情報資源管理(ナレッジ・マネジメントや知識創造理論)と密接に連係する必要がある。

 人的資源の特性としては次の3点があげられる。

(1)能力・技能は可変的

 人的資源の持つ能力・技能は、仕事をとおして開発されるものであり、そのキャパシティは絶えず変化している。その容量を高めるのが継続的学習である。

 また、今日のように技術革新や顧客ニーズの変化のスピードが加速してくると、いったん学習した能力・技能であっても、瞬く間に陳腐化しがちである。いかに貴い能力・技能であっても、実際の企業経営に役立たなければ「実力」とはいえない。

 つまり、相対的にも絶対的にも能力・技能というものは絶えず変化を続けるという特性がある。従って、人的資源の能力・技能は絶えず目標達成に役立つように開発を心がけなければならない。

(2)能力・技能の発揮度は勤労意欲次第

 さて、上述したとおり可変的なものであっても、ある一時点を取ってみれば人的資源の能力・技能は確定される。しかし、その能力・技能を活用して企業経営に役立てようとした場合にはもう一つのパラメーターを加えなければならない。それは勤労意欲である。

 従業員が勤労意欲を持って業務にあたる場合とそうでない場合では、その結果に大きな差が出来る。同じ能力・技能を持っている従業員でも、その勤労意欲に差があれば、その発揮度すなわち経営への貢献度(仕事の成果・業績)には差がでるものである。

 だからこそ、人的資源に対しては常に勤労意欲を高めるように働きかける「動機付け施策」の必要がある。例えば、常に従業員の勤労意欲を向上させられるもの(インセンティブ)を計画的かつ継続的に与え続けるなどである。

(3)チームワークが成果を高めるキーファクター

 従来の人事管理は、従業員一人ひとりを管理することで自己完結してきた。しかし、経営の視点で誰が付加価値を生むのかを再検討してみると、それは個人ではなくチームであることに気付く。優れた日本企業においては、チームが付加価値創造の単位であった。

 換言すれば、顧客満足の視点から見ると、医療サービスはチームのコラボレーションであり、チームメンバーの連係と協働が無ければ顧客満足は高まらないのである。