社員の皆さんに高業績達成行動と知識創造活動(創造性・イノベーション)に積極的に参加し、継続的に貢献してもらえるように、様々なモチベーション(動機付け)施策を総合的に実施する事が是非とも必要です。「超・成果主義」では、できるだけ経済的刺激・賃金格差をつけることによる刺激策に頼らず、総合的なモチベーション策を展開しています。つまり副作用の無いモチベーションです。

1. 「超・成果主義」自体が動機付けの創意工夫の塊

 「超・成果主義」(成果創造主義人事システム)は、高業績達成のための人的資源活性化システムですので、高業績達成行動と知識創造活動が盛んになるように創意工夫を凝らしています。つまり、「超・成果主義」自体が動機付けの仕組みを内包しているのです。

 動機付け策がどのように「超・成果主義」に盛り込まれているのか、その最新理論は別ページの説明を御読みいただくとして、ここでは「超・成果主義」が内包するモチベーション策の全体像を説明します。

■図2-11「超・成果主義」(成果創造主義人事システム)が内包する動機付け施策
超・成果主義のモチベーション策の全体像

(1)WhyとWhatに答える

 我社とは一体何なのか?そしてどうありたいのか?何をもって社会に貢献するのか?何故自分はこの職場にいて何故働くのか?何故この仕事をするのか? 何故自分がこの目標を担わなければならないのか?そして自分はどうありたいのか?こうしたWhyとWhatに答える努力をしなければなりません。

 こうしたWhyとWhatの問いに答えることで、一人ひとりの社員は自分自身が組織の中で何処に位置し、どういった役割を担い、組織全体の目的にどのように貢献するのかを自覚します。そして、必ず自分自身の仕事が、組織の仕事・成果をとおして社会に貢献していることに気付くはずです。つまり、社会と組織、そして個人が「働く」ということをとおして結びつくのです。

 毎日の仕事は辛いこともありますが、その仕事の意味、その仕事がどう役立つのかに気付けば、働くことの意味を自ら考えられるようになります。

 確かに、十人十色の時代ですから、働くことの意味は十人いれば十通りあるのかも知れません。しかし、「自分は生活費を得るために働くのだ」という方にも、自分の仕事が組織の中でどんな役割を果し、何を生み出し、社会にどういう形で貢献しているかを自覚していただくことはできます。自覚していただくために、成果創造型人事では「参加していただく」ことを重視し、コンピテンシー・コーチング技法やチーム目標管理、知創型IT目標管理システムなどを展開します。

 十人十色というものの、働くことに意味の自覚の先には、共通の価値観・共通の意味が生まれてくるはずです。それを成果創造型人事では大切にします。こうした、忙しい毎日では一見ムダに見える検討が、納得性を生み、それが自律性の発揮に繋がるのです。

(2)個人の努力を組織が支援する

 目標が押し付けのノルマになるか自律性を生むかの差は、まず前述のWhyとWhatに答える努力を開始することです。すぐに答はでませんが、 とにかくWhyとWhatに答えようと考えることがスタート台となるです。

■図2-12ノルマと自律性ある目標の分岐点
ノルマと目標の違いは納得性と支援

 ノルマと自律性ある目標のわかれめの二つ目は、一人ひとりの社員が目標を達成しようとして努力するのを、組織がどの程度支援できるかです。

 その支援とは例えば、知創型コンピテンシー・マネジメント・システムにより、高業績達成のための行動パターンを明らかにし、高業績達成のためのヒントとして社員に提示することです。また、チーム目標管理や知創型IT目標管理システムで目標達成のための対話と協働の場を形成することも支援です。

 実際に、困難な課題に取り組む経営改革プロジェクトでは、開始当初はなかなかプロジェクトメンバーの意気はあがりません。プロジェクトリーダーは必死ですが、それも良く見ればカラ元気です。元気を装っても自信の裏づけはありませんのでなかなかチームが本気になれません。しかし、プロジェクトの目的・目標を共有化し、コンサルタントのアドバイスなどから「これなら上手く行くんじゃないか?」とメンバーが思い始めると、風向きは急に変わりだします。メンバーの目の色が変わってきます。こうしてプロジェクトは加速し、難しい課題も解決できるのが通例です。

 目標管理も同じですね。一人ひとりの社員に「これなら上手く行くんじゃないか?」と思わせるような支援策を、組織が如何に計画的に展開するかが重要なのです。

2. 信頼と協働の企業文化を築く

 まず、成果“査定”主義から離れ、信頼と協働の企業文化を築くことが先決です。

(1)「飴と鞭のマネジメント」から脱却せよ!

 どうやったら目標が達成できるのか、その方法(ナレッジやコンピテンシー)を組織として提示したり指導する支援策も無く、業績責任を本人に押しつけ、業績・成果しだいで賃金を上げ下げする業績・成果偏重のマネジメントは言わば「飴と鞭のマネジメント」です。そして、最も重要な事は、こうした短期的な業績・成果偏重の「飴と鞭のマネジメント」の下で、業績・成果の責任が全て本人にあるとなれば、その業績・成果達成の秘訣であるナレッジをライバルともなる同僚などに教えるのは、「ライバルに塩を贈り」自分で自分の首を絞めるようなものとなります。したがって、当然ナレッジマネジメントが上手くいくはずがない。また、ナレッジの創造・蓄積・活用に不可欠な、企業と社員相互の「信頼」と「協働(コラボレーション)」の企業文化も醸成され難いのです。

 「飴と鞭」による動機付け施策は、社員が持つ多様な特性・可能性の中から、短期的な経済合理性にのみ注意を向けさせ、やがてはエゴ過剰な社員へと導いてしまいます。

(2)組織にフェアーな価値観を満たせ!

 チャレンジングな企業文化を醸成し、組織メンバー一人ひとりの知恵の総和を超えて、高度なパフォーマンスを発揮するためには、組織の中に「フェアーな価値観」が満ちていなければなりません。そのためには、本技法を用いて、管理職として期待される行動指針(コンピテンシー)に、フェアーな価値観を十二分に盛り込み運用することが肝要です。

 コンピテンシーを導入すれば、成果は高低があっても、仕事のプロセスは同様に立派なものであると評価し処遇に結びつけることが出来、運不運や偶然性を排して一人ひとりの貢献度をフェアーに評価することが可能になります。同時に、360度評価なども活用して組織の中からアンフェアーな価値観を一掃します。

 フェアーな価値観があればこそ、組織メンバーは安心して個人的なエゴを超えて、高い目標を掲げ、チャレンジし、時には失敗から学び、貴重なナレッジを惜しげもなく公開して共有化し、部門エゴよりも全体最適化を優先して、組織業績を高め得るのです。

(3)重要な価値観を共有せよ

 十人十色、十人の社員がいれば十通りの価値観がある、多様化の時代が現代です。豊かな社会ではそれが当然なのですが、仕事の面では価値観を統一することが、組織全体のパフォーマンスを高めます。下図では社員達の価値観があまりにばらばらなために、行動がバラバラになってパフォーマンスを発揮できない様を表しています。

■図2-13十人十色の価値観で仕事をすると行動はバラバラ
違う価値観では行動はバラバラ

 一方、下図では仕事をする上で大切な価値観を社員達が共有し、行動の足並みがそろったイメージを表しています。バラバラの行動に比べて、組織全体のパフォーマンスが向上します。

■図2-14共有すべき価値観を明確にすれば行動も足並みがそろう

共有すべき価値観で足並みが揃う参考資料: 太田隆次『アメリカを救った人事革命コンピテンシー』経営書院、1999年。をもとに、加藤が趣旨に合わせイメージ図を作成。

3. 成果主義人事を超える新人事ビジョン

(1)Win Winの人事ビジョン

 Win Win人事ビジョンとは、「労使ともにWin(共存共栄)」「社員同士がWin、チームがWin」「顧客に最大の付加価値を提供し、喜んで(Win)いただく」その結果「マーケットのライバルに勝つ」という人事ビジョンです。

 また、社員一人ひとりを知識創造の協働者と捉える知識創造のビジョンは、社員一人ひとりの尊い可能性を信じ伸そうと試みるビジョンでもあります。

 社員同士は(飴と鞭で競争させられるような)ライバルではなく、共に企業組織という舞台で切磋琢磨する学友・戦友です。こうした本来のWin Winの関係に回帰しなければなりません。お互いの長所を持ち寄り知恵を合わせ、個人の短所はお互いにフォローし合うという「ナレッジのシナジー効果」を発揮して個人の能力の限界をブレークスルーし、チーム・組織としての成果を最大化しようとするWin Winのビジョンがなければ、如何に精緻なマネジメント技法であろうとも空しいツールに過ぎません。

(2)ナレッジ・マネジメントの推進と知識創造支援の視点から

 Win Win人事ビジョンを掲げることは、経営者・企業と社員、社員同士が運命共同体宣言をするに等しいのです。そして、運命共同体宣言は「個人のエゴを超える」ことを可能にします。それは「組織のケア」を飛躍的に高め、知識創造による革新と継続的発展を実現します。

(3)ナレッジのシナジー効果

 社員同士は(飴と鞭で競争させられるような)ライバルではなく、共に企業組織という舞台で切磋琢磨する学友・戦友であり、お互いの長所を持ち寄り知恵を合わせ、個人の短所はお互いにフォローし合うという「ナレッジのシナジー効果」を発揮します。個人能力の限界をブレークスルーし、チーム・組織としての成果を最大化します。そのためには相互の信頼関係が不可欠です。

(4)知識創造経営のビジョンと実践が人を魅了する

A.知識創造経営の高邁なビジョン

 一人ひとりがナレッジワーカーでなければならない、あって欲しいと願うビジョンは、社員の意識を労働力を切り売りする労働者から、自律的な「知的協働者」へと高めます。同時にそれは働く一人ひとりの社員の可能性を最大限に尊重することに他なりません。今目の前の短期的業績目標達成に汲々として虚ろな日々を送る社員が、こうした、知識創造経営の高邁なビジョンに魅了されないはずがありません。少なくとも、知識を創造し、ナレッジワーカーのリーダーとなり得る高度な人材には必ずや強いインセンティブとなります。優秀な人材に、知識創造経営の高邁なビジョンを持つ優れた企業と、一時の金銭的処遇は高いが株主への利益還元の最大化という価値基準しか持たない企業(当然社員の成長・処遇は二の次)と、どちらをとるか聞いてみれば答は明白です。

B.職務完遂・目標達成の成功体験による強化・動機付け

 ナレッジが仕事の成功(目標の達成)に役立ち、それが自分の成長と職業生活上の様々な処遇の向上、そしてもっと自分らしく会社の中で活躍するチャンスを提供してくれるという成功体験によりナレッジマネジメントのサイクルは強化されます。

C.協働をとおして得る“知的喜び”

 協働のプロセスそのものと、協働をとおして得る「個人の限界を超える体験(自己の成長と成果産出)」が最大の知的喜びとなる“知創型企業組織”の実現に一歩一歩近づけるのではないでしょうか。協働をとおして得る“知的喜び”こそが21世紀最大のインセンティブとなり人々を成果に向けて駆り立てると考えます。

D.成果“査定”主義を超える

 飴と鞭の競争原理下では秘匿独占されがちですが、知創型コンピテンシー・マネジメント・システムにより高業績達成の秘訣を共有化できれば、来期は自分も高業績を達成できる希望が湧いてきます。

 従ってその秘訣を発見し教えてくれた高業績者が今期自分より20%高い年収であろうと感謝の念が湧くのは当然です。

 高業績が達成されれば利益配分の原資も増えWin Winの関係が実現します。「飴と鞭」から飛躍する人的資源戦略の「パラダイムシフト」です。

■図2-15Win Winの人事ビジョンで知識創造のスパイラルアップが始まる
Win Winで知識創造のスパイラルアップ

4. 社員の貢献に公正に報いる(外的報酬)

(1)外的報酬

 自らが苦労して創造したナレッジを提供し、同僚社員に使ってもらえるようにさらに洗練するのは大変な負担・リスクです。単に、与えられた個人目標を達成する以上の価値がある。こうした大きな価値に対して、なんらかの対価を与えるのは「外的報酬」という重要なインセンティブです。

 社員の貢献度を成果創造型人事というマネジメント・システムをとおして、人事管理上の金銭的処遇・地位的処遇などへ公式かつ継続的に反映する仕組みを築く事が非常に重要です。

 一見、成果“査定”主義と同じに見えますが、考え方が全く違います。まず、成果“査定”主義は外的報酬に「差をつけることで動機付け」しようとします。一方、成果創造型人事は外的報酬で、「社員の貢献に公正に報いる」ことをねらいとします。従って、実際に制度設計する場合には、大きな制度差となって表れます。

■図2-16成果創造型人事における人事処遇への反映イメージ図
人事考課の人事処遇への反映イメージ図
※矢印の太さが、処遇へ反映する場合の影響度の高さを表す。

(2)金銭的処遇への反映

 評価制度を通して、昇給や賞与額の増減に反映させるのが、制度的な継続性の面から推奨されます。また、報奨金として簡潔な仕組みでメリハリをつけて支給するのも良い考えです。ただし、こうした金銭的インセンティブは刺激的な反面、動機付けが長続きしないため他の施策と組合わせて総合的に実施するべきです。

 一方、昇進や昇給額の多寡(もしくは給与額の増減)に関しては、目標管理だけでなくコンピテンシーを取り入れます。(コンピテンシーによりバランススコアカード的な要素、すなわち組織能力の向上、ビジネスプロセスの改善、顧客満足の向上がカバーできます。)

(3)キャリア形成支援施策への反映

 ナレッジマネジメントに相応しいインセンティブ施策として、「キャリア形成支援」への優遇施策を特に推奨します。

A.社内公募制度

 例えば、「社内公募制度」にエントリーした場合には、ナレッジマネジメントに貢献した社員は優先的に希望部署への異動配置を検討してもらえる様にするなどの施策です。新規事業の立ちあげには、社内に無いノウハウへの挑戦が必要不可欠であり、その場合には正にナレッジを創造できるナレッジワーカーが求められるのであるから、人材を求める側のニーズにも良くマッチしています。

B.社内FA制度

 一歩進んで、社内に仮想的な労働市場を築く「社内FA制度」の場合には、ナレッジマネジメントへの貢献度の高い社員を明確に優遇するのも良い考えです。例えば、社内FA制度にエントリーできる社員を、ナレッジマネジメントへの貢献の知創型コンピテンシーの評価が直2年平均で4.0ポイント以上に限定し、4.5ポイント以上であれば異動したい職場を逆指名して、書類による一次選考を免除し、直接二次の面接試験が受験できる権利を与える等です。新しい職場で実力を発揮できるかどうかは、どのような知創型コンピテンシー(ナレッジ)を持っているかだけではなく、今までのナレッジの蓄積を活かして、さらにその上に新しいナレッジを発展させられるかどうかという要素が非常に大きいのですから、これもまた理にかなった優遇策です。

C.能力開発の機会

 さらに、短期留学やセミナー派遣などの「能力開発の機会」を優先的に与える事も良策です。ナレッジワーカーに求められる能力は、単に高業績をあげるだけではなく、その成功体験の中に「成功へのセオリー」という理論を見出す(もしくは、成功へのセオリーを創りあげる)方法論的な能力です。その能力を身につけるには体系的な知識・技能が必要であり、それを身につけるにはOJTだけでは不十分で、OffJTが効果的だからです。

D.抜擢:高度な仕事・役割へのチャレンジ

 一番効果的なキャリア形成支援策は「抜擢によって高度な役割にチャレンジ」させることです。ただし、その抜擢が上手く行くように組織的に支援する必要があります。下図は、優れたサブマネージャを沢山育てることを最大の人事戦略としたX社で、抜擢が見事に成功した事例です。

 このコンピテンシー発揮度が伸びた要因には、単に高度な仕事・役割にチャレンジさせるだけではなく上司の支援・フォローがありました。この抜擢と同時に、様々な育成用マニュアル類を大幅に改良し、抜擢された若いサブマネージャを組織的に支援したそうです。

 仕事をとおして能力を開発するのが最高の方法であると言われてきましたが、まさにこれは抜擢を中心にして、様々な能力開発・高業績達成支援施策を展開し、その理想を実現した事例です。

■図2-17サブマネージャのコンピテンシー比較事例(X社の事例)
成長がコンピテンシー比較数値で見える

5. 職場のコミュニティにおける感情的な喜びの提供(内的報酬)

 前述した「信頼」と「コラボレーション」の企業文化のもう一つの側面が、コミュニティ(職場の人間関係を中心としたインフォーマル集団)の存在です。社員は働く事をとおして、単に経済的な処遇を受け取るだけではなく、さらにコミュニティに帰属したり、その中でメンバーから自分のナレッジの創造・改善・革新などの成果を適切に評価され(認知)、また尊敬されるといった感情的な(内面的な)要素により動機付けられます。

 システムとしては、「表彰制度」などであるが、その賞品もコミュニティグループのメンバー全員にプラスになるようなグループ報奨的な要素を入れると、コミュニティメンバーは表彰されたナレッジワーカーを羨むのではなく祝福するようになり、その結束はさらに固くなりナレッジマネジメントを加速してゆけるのではないでしょうか?