Q:当社では、事業計画を推進してから、もう3年目になります。相当立派な事業計画が策定できたと自負しています。しかしその反面、なかなか計画が達成できずに担当役員として苦慮しているのが正直なところです。社内で対策会議を開き議論を重ねたところ、実行面に工夫が足りないのではないかという提言がなされました。個人的にはなるほどそうかも知れぬと思いましたが、その場での即答は出来ませんでした。次回の対策会議に間に合うように、事業計画を実行に移す場合の留意点を教えてください。

A:事業計画を実行に移す場合の留意点
 事業計画は実行してこそ価値があります。しかし、どれほど絵にかいた餅で終わってしまう事業計画が多いことか、皆様の周りの企業を見渡してみてください。企業経営においては、結果がでなければそのプロセスがどんなに立派に見えたとしても、実はその立派さの影に大きな問題が潜んでいるものです。貴社の場合は事業計画を実行するシステムの整備とその運用が上手くいっていないのではないでしょうか。

 以下に事業計画を実行に移す場合の留意点をご説明いたします。

1.事業計画の発表イベントと全社共有化

(1)「事業計画書」の作成と配布

 作り上げた事業計画は「事業計画書」として印刷・製本し、管理者以上に配布しましょう。できれば全社員に配布したいところですが、受け取る側の理解力の問題もあるので現実的には全社員に配布するのは難しいところです。

 経営上の重要事項を取りまとめたものですので、全ての事業計画書には通しNo.をふり、誰に何番を配布したか管理することも実務上重要です。

(2)キックオフイベントの開催

 年度のはじめに事業計画の発表会を開催する企業は多いですが、それを年に一度のイベントとして位置づけましょう。ちょっとハイカラにキックオフイベントなどと呼ぶところも多いようです。

 そのキックオフイベントを開催し、事業計画を発表します。経営トップ一人が説明するのではなく、各部門の長にそれぞれ部門計画を発表してもらいます。一種のイベントとして演出し、当社の事業計画を従業員全員で作り上げた事業計画「私達の事業計画・私の目標」としてイメージを作り上げることが大切です。

 同時に、前期の成績優秀者の表彰など、年度の節目としての儀式を盛り込み、キックオフイベントを盛り上げて行くことも効果的です。かつての収穫祭などの働く上でのたのしいイベント・祭礼が、企業経営の世界ではキックオフイベントに姿を変えているわけです。

(3)従業員の参画意識の醸成

 上述のようなイベント等を通して、従業員の参画意識は高まって行くものです。大切なのは、「これはトップから押しつけられた事業計画・利益目標であり、強制された予算である」といったイメージをぬぐい去ることです。働く者の自我が発達した現代では、トップダウンの一方通行でやらせようと強制すればするほど経営の意思は空回りしがちです。

 (また、従業員の参画意識を高めるには、事業計画の策定プロセスに、従業員参加型の方法や要素を取り入れることが大変重要ですので、ここに併記させていただきます。)

2.月次でマネジメントサイクルを回す

(1)月次決算の実現

 翌月10日を目標に、 月次決算を行います。先月は儲かったのかどうか?計画に対してどの程度上手くいっているのか?是非とも早く知りたいところです。若干の差異は許容して、まず情報提供スピードを高速化します。

 最近は、パソコンによる経理ソフトもバージョンアップを重ね、より使いやすくなってきていますので、導入の検討もされてはいかがでしょうか?ただし、その運用の担い手を育成するのに、最低半年程必要かもしれません。また、会計事務所のサービスにも月次決算情報の提供は契約のうちに含まれるか、もしくはオプションで別途依頼できることも多いので、一度要請されてみてはいかがでしょうか。

(2)月次業績会議の開催

 月次決算の情報を受けて、月毎の業績会議を開催します。業績責任を担う全管理者の参画が望まれます。

 おもに部門別業績評価を中心に行いますが、次のような機能を果たせるよう、ステップ・バイ・ステップで業績会議の質を向上させて行く根気と努力が必要です。当初は、忙しい管理者を集合させるよりは稼がせたいなどと現場からの抵抗もあるかも知れません。また、意見を求めても何の反応もないかも知れません。しかし、焦らず高圧的にならず、根気よく続けていると半年も経つ頃には、皆がこの会議で発言するのを楽しみにするようにさえなります。

A.情報伝達会議

 まずは、「情報伝達会議」としての機能を充実させます。月次決算情報の提供にとどまらず、物理的に一堂に会することにより、部門間のコミュニケーションの断絶の解消にも役立てます。部門間の情報伝達はどんな企業でも上手く行っていないものです。それを物理的に連絡の場・コミュニケーションの場を作ることにより改善することが可能です。

B.意思決定会議

 次に、全管理者が集うその場で、部門間の調整を要する意思決定を行うことが可能になります。これが、「意思決定会議」機能です。

 決して次回までに検討するなどと後回しにせずに、その場で決めてしまうことです。そのためには、事前に参加者に議題を伝えることも必要でしょうし、主催者側が具体的な提案事項にまで案件を練り込んでおく必要もあるでしょう。

C.問題解決会議

 しかる後に、「問題解決会議」としての機能を充実させます。目標未達の差異分析そして、対策の立案など、まさにマネジメントサイクルを回す要として位置付けます。次の行動に1カ月分の実績とその反省・工夫が反映されなくてはなりません。

 事業計画の達成に向けて、上手くいっていない部分には皆の知恵を結集して対策案を考えましょう。徹底的に議論しましょう。こうした地道な努力を通じて、目標必達の風土は醸成されて行くのです。決して上からの号令だけでは組織の風土は変わることは無いでしょう。

3.従業員の「やる気」を引き出す仕組み作りと運用

 単に事業計画を作成・運用して行くだけでは十分とは言えません。他の制度面の充実と運用今日か強化を図ることでさらに相乗的な効果が期待できます。次ぎに簡単にご説明いたします。

(1)成果を適正に把握する仕組み

 がんばった成果を適正に把握する仕組みが必要です。

A.目標管理制度

 (チーム目標管理を推奨。)

B.人事考課制度

(a)成績考課

(b)コンピテンシー考課(もしくは執務態度考課)

(2)成果を適切に処遇に反映させる仕組み

 がんばった成果を適切に処遇に反映させる仕組みが必要です。

A.人事制度関係

(a)昇給制度

(b)賞与制度

(c)昇格制度

(d)昇進への反映

(3)インセンティブ制度

 金銭以外の心理的インセンティブを重視しましょう。以下のような項目について継続的に進めることが重要です。

A.業績会議の席上での報償

 「達成の承認」としてのシンボルの授与を行います。「達成の承認」は動機付けのキーワードです。良い結果を出したことを皆の前で公表し認めてあげる・褒めてあげる事です。こうやって組織の中にチャレンジする風土を醸し出していきましょう。

(a)表彰状

(b)賞品

(c)金一封

B.教育機会・自己実現の機会の提供

 伸びる芽ならどんどん伸ばしましょう。やる気のある人材には積極的に教育の機会をもって報いましょう。

(a)外部教育機関への派遣

(b)海外研修・洋上研修への参加資格の提供

(c)より重要な職務・役割の任命

X社の事例

 新人類や女性を活用することで定評のあるX社では、事業計画の達成に向けての動機付けの仕組みを実に巧妙に展開しています。

 キックオフイベントは、大きな会場を貸し切って大々的に行います。その後事業部門にわかれ、前期の成績優秀者の表彰など、年度の節目としての儀式で盛り上がります。その後は無礼講の大宴会です。

 事務所に戻っては、毎月の業績会議を徹底して行います。そのほかに、毎日の朝礼、週一ペースの課毎の会議など業績達成に向けての執ようなまでのミーティングが展開されます。

 目標を達成すれば、誰もが小さな英雄になれます。金一封とともに事務所の全社員の拍手に包まれ、自分の努力が皆に認められる幸せを噛み締めることが出来ます。半期に一度は海外旅行の権利を得るチャンスも巡ってきます。事務所の中には祝目標達成の垂れ幕がなびき、全社が一種の躁状態になり高成長を達成してきたのはよく知られています。

 お祭り経営などと表現される方もいますが、その背後には今まで述べてきた理論が精密に設計されています。心理学的経営とさえ言えるほど高度で緻密な動機付け施策と事業計画運用の仕組み、そしてその徹底した遂行がX社の強さの秘密です。それをまねできるか否かは別として、その各種施策を「徹底する」経営の意志の強さは誰もが見習うべき手本でありましょう。