中小企業の事業計画-2-なぜ必要か

Q:当社では、市場の順調な伸びに助けられ、常に売上高前年比15%増の実績をあげてきました。しかし、ここに来て市場全体の成長が鈍り、当社自体の成長もここ2年ほど頭打ちです。今までは、売上目標の達成がすべての管理面の弱さを覆い隠していたようで、大した予算・計画を組まなくても良い決算を実現してきました。しかし、来年以降は相当厳しそうです。これを機会に、当社でも事業計画を導入しようと思うのですが、事業計画はなぜ必要なのか教えてください。

A:事業計画はなぜ必要か
 事業計画はなぜ必要なのか?その質問をなさるのは、事業計画を作成することが質量ともに大変な仕事に思われるからでしょう。しかもその事業計画が成果に結びつかないのであれば大きな損失になりかねないと考えていらっしゃるからだと思います。しかし、今日では、確固たる事業計画なしには企業の中長期的発展は極めて困難であると言えます。その理由を以下に述べさせていただきましょう。

1.事業計画の必要性

 一言で言えば、事業計画は、「戦略経営」の展開に欠かせないのです。企業環境が素早くかつ大規模に変化している今日では、事業計画を策定し実践することにより「戦略経営」を展開すること無しには、企業の中長期的発展はありえません。あえてそう断言いたします。

(1)「戦略経営」とは

 「戦略経営」とは、企業環境変化への挑戦と適応を図り、企業自らの経営構造(経営の仕組みの基本的骨格・成り立ち)の革新をすすめることで、企業の長期・安定成長を図ることです。

(2)変化を発展のチャンスへ

 経営環境の変化のスピードが極めて加速され、その変化の質的側面もまた高度なものになっています。その環境の激変の波を真っ正面から受けとめて、変化に先進して対応し、その変化を発展のチャンスへと味方に付けることができるようにすることが大切です。

 事業計画を策定し推進していくことで、企業の成長・発展に関わる企業環境を正しく把握することができます。そうすれば環境変化への対応を明らかすることができます。

(3)長期目標・経営課題が明確に

 事業計画を策定し推進していくことで、企業の長期目標・取り組むべき経営課題が明確になります。経営課題が明確になれば、より戦略的な企業行動がとれるようになります。そして、目標・経営課題達成のための活動計画を合理的に策定し、計画の実現効率を高めることができます。

(4)企業が存続発展し続けるために

 企業は永続的発展を遂げることでその社会的使命を果たして行くものです。企業が存続発展し続けるためには、事業計画を遂行することによって絶えず環境に適応してゆく必要があります。
 すなわち、企業は事業計画を遂行することによってのみ、その社会的使命を果たし社会への貢献を実現できるのです。そして同時に長期的適正利潤を確保することが出来、また従業員の福祉も向上させていくことができるのです。

2.5つの重要な役割

 さて、もう少し具体的な点についてご説明いたします。

 事業計画は経営にとってなくてはならない重要な役割を担っています。それは、次の5つの役割です。

(1)経営戦略実現の道具(ツール)としての役割

 どんなに立派な経営理念や経営目的を持ち、それを可能にする経営戦略を立案したとしても、それを実現するための具体的な道具(ツール)がなければ実現は不可能です。経営のP-D-C-Aを回す大切な道具の役割です。

(2)業績評価基準としての役割

 事業計画はその事業年度における業績の評価基準として極めて重要です。業績の評価基準がなければ、今事業計画の推進が上手くいっているのかどうか、何を使って判断するのですか?業績が低迷していれば、事業年度の途中に何か対策を打つ必要がありますが、現状が良いのか悪いのかを把握する事が出来なければ対策の打ちようがありません。

(3)責任と権限を明確化する役割

 事業計画を推進し、具体的な経営課題に取り組む事により、組織における責任体制と権限が、必要に迫られて明確になってきます。誰がどんな課題に取り組むのか、漫然と日常業務に取り組んでいたのではなかなか明らかになりません。具体的な経営課題こそが具体的な責任と権限を生み出すのです。

(4)マネジメントノウハウを蓄積する役割

 事業計画を推進していくことで、学習効果により、その事業計画を策定する精度が向上します。すなわち、事業計画推進に参画した幹部や管理者に事業計画力とか先見力とかいったマネジメントノウハウが蓄積されてくる点が重要です。はじめは事業計画を策定・推進していくのは大変かも知れませんが、その苦労こそがノウハウを学んでいる瞬間であり、先を見通し、ライバルの先回りをしてチャンスを掴む、そんなノウハウが同時に得られるのです。

(5)人的資源をレベルアップする役割

 きちんとした目標を定めて、日々の業務を推進し、管理サイクルを回していくことで仕事にメリハリが生まれ、全般的に人材の能力が向上します。思い出してください、人材の開発方法では仕事を通じて育成していく方法が最も効果的であることを。

 また、事業計画を策定する際に、従業員の参画型の方法を取ることにより、従業員の経営参加意識を高め、それが勤労意欲を高める効果がある点もとても大切です。現代の労働者は、豊かな社会に生まれ育っています。決して生活費を稼ぐためだけで働いているのではないのです。貴社の従業員が、自らの会社の事業計画を作り上げるのに参加し、自ら大切な役割を担っていると感じたとき、自らの創意工夫を重要な事業計画に役立てていると感じたとき、その従業員は大きな生きがい・働きがいを感じることでしょう。

 能力も十分に開発され、勤労意欲も高い人材がどのような貢献をしてくれるか、それはまさに「精鋭」と呼ぶにふさわしい働きが期待できます。

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