トヨタとアップルのイノベーション促進人事戦略の秘密

 なぜトヨタとAppleはイノベーションを連発できたのでしょうか?トヨタとAppleのイノベーションの2つの秘密がここにあります。本質的な「働きがい」真の顧客志向の実践がその秘密です。一人の天才がいたからではありません。
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写真の出典:トヨタ自動車株式会社  写真の出典:Apple Inc.、Next Software, Inc.

加藤昌男画像『超・成果主義』加藤昌男著-日本経済新聞社

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1.本質的な「働きがい」とは:アップル社とトヨタ・プリウスのケース

 アップル社やトヨタ・プリウスの本質的な「働きがい」が高業績をもたらした成功事例を本項の視点(次世代貢献マインドが本質的な働きがいにつながる、表面的な顧客ニーズ以上のものを提供する)で分析してみると、その成功要因は驚くほど共通しています。

(1)社員に本質的な「働きがい」を提供できる組織が勝つ

 アップル社やトヨタ・プリウスは、社員に本質的な「働きがい」を提供し、高業績を達成しています。優れた人材を育てはぐくみ、対話型チームワークで真の顧客志向を実践できたことが要因です。

A.天才はシンボル

 アップル社はスティーブ・ジョブズ氏という天才が目立った活躍をしました。しかし、自動車も、OS(iPhone,iPadのiOS)も複雑な製品なので、一人の天才で作れるものではありません。アップル社の成功をスティーブ・ジョブズ氏一人に帰すのは解りやすくて面白いですが、本質的ではありません。

B.本質的な働きがいとチームワーク

 多数の優れた人材がいて対話型チームワークができてこそ、一人の天才がシンボルとして輝くのです。一人の天才で奇跡の復活が可能なら、もっと沢山の企業で奇跡が起こっています。本質的な働きがいを感じる多数の人材による和して同ぜず型のチームワークがあればこそ、高業績が達成できるのです。

(2)ケース:アップル社とトヨタ・プリウスの成功に共通する本質的な「働きがい」

 アップル社の奇跡の復活、トヨタ・プリウスが登場したときの衝撃と尊敬そして世界一の自動車会社の地位を確立、その2つのケースの共通点は、本質的な「働きがい」が高業績につながった点です。トヨタだってVWと似たようなものですし、アップルもマイクロソフトと似たようなものです。社員が本質的な「働きがい」を持って全人的能力を投入し真摯に働いたからこそ世界一になれたのです。

 ここでは特に、働きがいと高業績の両立(創造性・イノベーションの達成を含む)に強く関わるマインドセット(ものの見方考え方・価値観)は何だったのか?誰のために仕事をしたのか?を探ります。

2. 本質的な「働きがい」を生む次世代貢献マインド

(1)次世代貢献マインドとは何か?

 「次世代貢献マインド」とは、より良い社会を創り次世代へ継承したいという希求(欲求・ニーズ)です。いわば、社会貢献マインドが未来や子孫達に向かうものです。

(次世代貢献マインドは、心理学でいう「次世代性・生殖性」Generativity,ジェネラティビティを解りやすく表現したものです。)

A.30才過ぎるとGenerativityが生まれはじめる

 生涯発達心理学では、30才から50才の成人中期になると、Generativityが芽生えてくると言われています。30才を過ぎて、出産・育児を経験したり、自分の体力の衰えや親しい者の死を経験して「自分自身の生命の有限性」を実感したりすると、Generativityが生まれてくるのです。

(2)本質的な「働きがい」とチームワーク

 アップル社とトヨタ・プリウスの事例では、次世代貢献マインドを企業ビジョンとして掲げました。そして、次世代貢献マインドによって沢山の社員が動機づけられました。内発的動機づけという、自らの心の中から湧き上がってくるもので、本質的な「働きがい」と呼ぶのに相応しいでしょう。これが優れたチームワークにつながりました。

 これは、特に優れた社員に特別ボーナスを払おうというような外発的動機づけとは全く違います。そのような成果の差に応じて賃金処遇に差を付けようという外発的動機づけでは、かえってチームワークを損ないます。

(3)真の顧客志向の実践が本質的な「働きがい」につながる

 アップル社とトヨタ・プリウスの成功事例に共通するのは、「真の顧客志向」の実践が本質的な「働きがい」につながることです。

 真の顧客志向とは、「お客様にとって何が本当に良いことなのか考え実践すること」です。具体的には、製品・サービスの提供によってお客様のパワーを増幅し、お客様の事業が発展するように支援したり、お客様の生活をより良いものにすることです。

 表面的なニーズでなく、何がお客様にとって最善か共に考え実践することが重要です。顧客の未来ニーズ・潜在ニーズにも志向し、創造性を発揮してイノベーションを起こせる必要があります。
もちろん、独善ではなくお客様との対話が必要です。お客様の理解できない製品・サービスではビジネスが成立しませんが、お客様の表面的ニーズに応えることが全てでもありません。

A.顧客ニーズの階層と顧客の階層

 顧客ニーズには階層があります。表面的なニーズに応えていれば楽ですが、中期的に見るとお互いに停滞してしまいます。
 例えば、働く日本人のマインドが(悪しき)成果主義によりスポイルされ、失われた20年が続いているのはこの停滞に相当します。


■顧客ニーズの階層             ■顧客の階層と次世代貢献マインド
顧客ニーズの階層、顧客の階層と次世代貢献マインド

B.お客様と一体になって社会を発展させる企業行動

 つまり、真の顧客志向の本質は「お客様と一体になって社会を発展させる企業行動」です。換言すれば、お客様と共に次世代貢献マインドを育み実践することです。アップル社とトヨタ・プリウスの成功事例では、まさにここが共通した成功要因なのです。

3. アップル社とトヨタ・プリウスのケース比較表

(1)本質的な働きがいとイノベーション

参考資料:『ハイブリッドカーの時代―世界初量産車トヨタ「プリウス」開発物語』2009年、光人社、碇 義朗。

(2)真の顧客志向とイノベーション

参考資料:『ハイブリッドカーの時代―世界初量産車トヨタ「プリウス」開発物語』2009年、光人社、碇 義朗。

4. まとめ

 アップル社やトヨタ・プリウスは、社員に本質的な「働きがい」を提供し、世界一の高業績を達成しています。
優れた人材を育てはぐくみ、対話型チームワーク真の顧客志向を実践できたことが要因です。

 本質的な「働きがい」を生むのは、社会貢献マインドと、それが未来志向に発展した②次世代貢献マインドです。
社会貢献マインド・次世代貢献マインドとイノベーション・モチベーション

 また、真の顧客志向を実践するには、目に見えない潜在ニーズを創造する必要がありますが、その創造の軸になるのが①社会貢献マインド②次世代貢献マインドの評価軸です。
どのような評価軸で評価するかによって、評価結果や見えるものが違ってきます。例えば、我が子により良いものを残したいという「次世代貢献マインド」の軸で見るからこそ、トヨタ・プリウスやトヨタ・ミライというハイリスクな車が開発目標になるのです。

■トヨタ・プリウスを3つの軸で評価したイメージ図(クリックで拡大します)
トヨタ-プリウスを3つの軸で評価したイメージ図写真の出典:トヨタ自動車株式会社

参考【統計データにみる①社会貢献マインド、②次世代貢献マインド】

厚生労働省「働きがい」関連調査2014年より

厚生労働省「若者の意識に関する調査」2013年より

5.リーダー・管理者に役立つ参考書籍

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