企業理念の構造と意義について理解を深めます。とかく難しく思われ、馴染みが薄い企業理念をきちんと理解する事は、管理者にとって非常に重要です。理解の後で、次回は企業理念を部下や職場に徹底させる方法を学びます。企業理念を部下や職場に徹底させる実践が管理者能力の開発につながります。

1.「企業理念」とは何か

 企業理念とは、一言で言えば「企業活動において大切な事柄・価値観」をまとめたものです。企業理念によって、我が社では何が大切で、何が重要なのか、という基盤を明らかにします。

 企業理念は、次のような「大切な事柄・価値観」により成り立っています。

(1)企業の使命

 企業の使命は、「我が社の存在意義」を明らかにするものです。すなわち、「我が社は、社会やお客様にとってどんな存在なのか?」を提示するのです。

 これは、言葉を変えれば、「我が社の目的は何なのか?我が社は、企業として何を行うことで社会やお客様に貢献していくのか?」を文章で明確に示すのです。

(2)経営哲学

 企業を経営するに際してよってたつべき大原則、基本となる重要な価値観・考え方を簡潔に示します。主に経営者層の価値観・考え方を整理したものです。

(3)共有すべき基本的価値観を解りやすく示す

 企業活動を行う上で、会社組織・全社員にとって「何が大切な事なのか」を解りやすく明解に示します。

(4)ビジョン

 企業の使命、経営哲学、共有すべき基本的価値観をふまえて、企業が将来どうありたいのか、どうあるべきなのか、「目指すべき姿」を描いたものです。

(5)「企業理念」を補足する「行動指針」

 上で説明した「企業理念」は、長い期間にわたって受け継がれてゆく大原則ですので、日常的な言葉・表現ではなく、概念的な言葉・表現で説明されがちです。そのため、若い社員には難しい表現になっています。そこで、沢山の社員に理解してもらえるように、企業理念を社員が遵守すべき基準として具体化したものが行動指針です。

 最近は、「企業理念」とそれを解りやすく具体的に補足する「行動指針」を二つセットで社員に提示する事例も多くなっています。

2.企業理念を部下・職場に徹底する意義

 企業理念は、対外的にはお客様・株主・取引先・地域社会に対して、「我が社はどのように役立つのか」を伝えます。その企業理念に、ライバル企業との違うメリットを盛り込めれば、競争に打ち勝てる強力な施策になります。いわば、コーポレート・アイデンティティ活動的な機能です。

 さらに、企業内の社員・組織に対しては、企業理念は「どのような基本的な考え方・価値観に基づいて仕事を遂行すべきか」を伝える機能を果します。近年、企業理念の社内向け機能が注目され、様々な企業で優れた施策が実践されています。

(1)「日常業務・目標達成」と「改善・改革」を両立させる意義

 企業理念を部下・職場に徹底する事には、大変重要な意義があります。それは、「日常業務・目標達成。毎日、確実にやらなければならない事柄」と、「改善・改革。より優れた企業・職場にするために必要な事柄」を両立させる働きです。
 企業を運営する際に重要な「日常業務・目標達成」と「改善・改革」の活動を結びつけ、その矛盾や葛藤を乗り越え克服する活動の中から、さらに優れたものを生み出し、企業として発展することが出来ます。

(2)「日常業務・目標達成の次元」と「改善・改革の次元」の二つの次元

 職場の日常業務・目標は、①日常的で具体的な事柄(目で見える、カタチがある)、②一年程度の短期的な事柄です。この次元は、「日常業務・目標達成の次元。毎日、確実にやらなければならない次元」とも言えます。

 一方、企業理念は、①企業運営や経営という高度で概念的な事柄(目で見えない、考え方)、②長年受け継がれる中長期的な事柄です。この次元は、「改善・改革の次元。より優れた企業・職場にするために必要な次元」とも言えます。

(3)管理者の弱点は「改善・改革の次元」を忘れがちなこと

 目の前に「やらなければならない事柄」が沢山あると、つい改善・改革の次元は忘れがちです。この点は、管理者の陥りがちな弱点です。まじめな方ほど、目の前の「やらなければならない事柄」に集中しがちなものです……

 しかし、改善・改革の次元である「企業理念」は決して第二優先の次元ではありません。改善・改革の次元である「企業理念」の重要性は、「日常業務・目標達成の次元。毎日、確実にやらなければならない次元」と同じです。「日常業務・目標達成」と「改善・改革」を両立する必要があります。

 その理由は、改善・改革の次元を疎かにすると、経営環境が変化すればやがては現状維持さえ出来なくなってしまうからです。

 例えば、かつて技術の日産と呼ばれ優れた自動車を開発した日産自動車も、それぞれの管理者がそれぞれの立場から目の前の「やらなければならない事柄」に集中した結果、企業として経営環境の変化に適応できませんでした。スカイラインGTR(1989年型)などは「操縦性で世界一を目指す」目標を掲げ努力を重ねて、当時世界一の操縦性を実現しました。
 しかしその目標達成の一方で、石油資源の枯渇や地球温暖化対応の環境変化に適応できるように省エネエンジンやハイブリッドカーなどを商品化していれば、より良い企業に発展できたはずです。もって他山の石としたいものです。

3. 花王グループの企業理念「花王ウェイ」事例

 花王グループの企業理念「花王ウェイ」を紹介します。花王は、目標達成に関しては非常に厳しい風土がありますが、この企業理念を併用することで、バランスの取れた企業活動を展開し、繁栄しています。
(出典:花王グループWebサイト

(1)使命

「私たちは、消費者・顧客の立場にたって、心をこめた“よきモノづくり”を行ない、世界の人々の喜びと満足のある豊かな生活文化を実現するとともに、社会のサステナビリティ(持続可能性)に貢献することを使命とします。この使命のもと、私たちは全員の熱意と力を合わせ、清潔で美しくすこやかな暮らしに役立つ商品と、産業界の発展に寄与する工業用製品の分野において、消費者・顧客と共に感動を分かち合う価値ある商品とブランドを提供します。」

(2)ビジョン

「私たちは、それぞれの市場で消費者・顧客を最もよく知る企業となることをグローバルにめざし、全てのステークホルダーの支持と信頼を獲得します。」

(3)基本となる価値観

A.よきモノづくり
 ①ニーズとシーズの融合、②個の力の結集、③よきモノづくりのサイクル

B.絶えざる革新
 ④改善と革新、⑤健全な危機意識、⑥危機をチャンスに

C.正道を歩む
 ⑦敬意、公正、誠実、勤勉、⑧法と倫理の遵守、⑨社会的責任の遂行

(4)行動原則

A.消費者起点
 ①消費者第一、②消費者理解、③消費者との交流

B.現場主義
 ④生活の現場を知る、⑤現場からの一体感、⑥現場からの発想

C.個の尊重とチームワーク
 ⑦ダイバーシティの尊重、⑧個の力の発揮、⑨自由闊達なコミュニケーション、⑩ビジネスパートナーとの協働

D.グローバル視点
 ⑪ローカルニーズの熟知、⑫ローカルマーケットに対応した仕事、⑬オープンに学ぶ姿勢、⑭グローバル最適